【書籍化】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う【コミック2巻発売中】
(いや、俺にはもう無理な話だ。ワーウィックもあれだけの怪我をしていたら当分飛べないだろうし)

 祖国に保護されていると信じている自分の竜のことを思った。

 契約を交わしているので、生きているか死んでいるかくらいは離れて居てもわかる。距離があるため、その声は聞こえないが。心の中でいつも騒がしい奴だったが、あの声がもう聞こえないとなると、寂しくもある。

 今の自分の心の声を聞いたら甘すぎて砂糖を吐くかもしれないけれど。

「あのっ……私、そろそろ帰りますね。話に付き合って頂いてありがとうございました」

 ぺこりとお辞儀をして微笑んで去って行く。その細い後ろ姿をじっと見つめる。

 あの可愛い子とデート出来たら楽しいだろうなと思う。自分もそう口が上手い方ではないが、二人なら沈黙があったとしても、なんでも楽しいだろう。

 どんな物を欲しがるかなと考えて、檻の中にいる自分にはもうあの子に何も与えてあげられないことに気がついた。もうすぐ死んでしまう人間にそんな権利はないだろう。

 二人歩く未来をあげることも、この心を返してあげることも、出来ない。

 ひどく自分の今の状況を恨めしく思った。

 あの可愛い女の子をただの竜騎士であった自分が見つけることが出来ていたなら。自分の思いに彼女がその愛らしいピンク色の唇で肯定の言葉をくれるなら。

 きっともう二度と離さない。離してくれと泣いて頼んでも離せないだろう。そう思った。それほどまでに心まで囚われてしまっていた。
< 240 / 299 >

この作品をシェア

pagetop