【書籍化】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う【コミック2巻発売中】
 その日はなんだか、檻の前に来た時から様子がおかしかった。

 いつもリカルドの顔を見たら微笑んで嬉しそうにはにかむのに、今日は切なそうな顔をして見上げるのだ。一瞬泣きそうになったようにも見えて、リカルドは眉を寄せた。何か悲しいことでも、あったのだろうか。

 なんでも突然縁談がまとまったのだと言う。だから、もうここには来れないと、続けてそう言った。

 リカルドは自らの心臓が速度を上げていくのを感じた。

 自分はもうこの先、死にゆく人間だ。覚悟は出来ていた、出来ていたはずだった。けれど、その言葉を受け入れることを心が拒否をしていた。そうして思ったのだ。自分の相棒、あの赤い竜、ワーウィックさえ居れば彼女を連れ去ることも出来るのに。

(ワーウィック! くそ、なんで今いない!)

 その声に応えるように高く響く鳴き声が聞こえた。

(リカルドリカルドリカルド!!)

 その悲痛な叫び声に、まさか、と思った。竜特攻の攻撃魔法を受けて大怪我をしているはずの相棒の声がする。いや、切望のあまり聞こえた幻聴かもしれないと冷静にリカルドは思った。もう一度呼びかけてみる。

(……ワーウィック?)
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