辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する 2
「──セシリオ様はわたくしが『閣下』と呼ぶのはお嫌いですか?」
「いや、嫌いではない。『閣下』と呼ぶきみも可愛いらしいから好きだ。ただ、名もたまには呼んで欲しいと思っただけだ」

 サリーシャはセシリオを見上げた。セシリオがなにか自分の願い事をサリーシャに言うことは滅多にない。もしかしたら、初めてかもしれない。これは是が非でも叶えなければならない。

「では、こうしましょう。二人きりのときは『セシリオ様』、公衆の前では『閣下』と呼びます」
「できるのか?」
「できますわ。間違えたら、なにかペナルティがあっても構いませんわ」

 自信満々に言い切るサリーシャの顔をセシリオは身を屈めて覗き込むと、突然軽く触れるだけのキスをした。

「今度から間違えたら、罰として口を塞ごうか?」

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