【短編】猫が運んだ淡い初恋
待合室のベンチに座っている母の膝の上には、さっきまで寝ていたはずのタマがくつろいでいる。
その隣には……。
「お母さん、何やってるの」
「いや〜、可愛かったもんだからつい」
ニコニコ笑顔でタマの写真を撮っている、母と同世代くらいの女の人がいた。
どうやら市瀬さんのお母さんのようだ。
親子揃っていつの間に仲良くなってたとは……猫パワーすごいな。
「あら猫ちゃん! タマ、お友達よ!」
「こんにちは。ベルちゃんです。はじめまして」
少し談笑したところで、早速タマとベルちゃんをご対面。
お互いに興味津々で怖がることもなく、とても和やかな時間が流れた。
その後、順番が来て診察室へ。
二匹とも無事に注射を終えたのだが……。
「ねぇ、こっち向いてよ」
「「…………」」
お医者さんに怯えて逃げようとするのを強引に押さえつけたため、兄弟揃っていじけてしまい……。
家に帰るまでそっぽを向かれたのだった。