【短編】猫が運んだ淡い初恋
両親が言うには、同行した際に、明らかに人に会うのを嫌がっていた猫が一匹いたという。
残ってしまったのは、恐らくその子だろうと。
「『来月に去勢手術をする予定だから、良かったら会いに来てくれませんか』と言われた」
「それ……俺も行っていいの?」
「いいのって言うより、むしろソウが行かないとだろう。見つけた人間なんだし。お父さんはこの子達と留守番してるから行ってこい」
タマを撫でながら穏やかな顔で答えた父。
今までは両親が同行していたのに、俺を呼ぶってことは……。
「十二月に入ってすぐの日曜日だそうだ。空けときな」
「……わかった」
良かった。今年中に行き先が見つかって。
それに、ずっと願ってた見送りもできるし。
嬉しいはずなのに……どうしても口角が上がらない。
これが最後の対面ってことは、市瀬さんとこうやって会うのも最後。
親同士が連絡先を交換しているから、交流が完全になくなるわけではないけれど……今までみたいに頻繁に会えなくなるのは寂しいな。