【短編】猫が運んだ淡い初恋
タマとマルは俺が命名したけれど……人様の猫に単純な名前はちょっとつけにくい。
確か他の子達は……。
最初に貰われていったコタロウ君と、二番目にデカかったというコジロウ君。
猫の勉強をしまくった笹森さん一家の猫は、トラ美ちゃんって聞いたっけ。
「……あの、トラ吉はどうでしょうか。
吉はおみくじの吉で、いいことがありますようにって意味です」
市瀬さんは彼らのことをトラちゃんと呼んでいた。
いきなり呼び方がガラッと変わると混乱しそうなので、少し名前を足すくらいがちょうどいいかもしれないと思い。
考えた結果、人が苦手で最後まで残ってしまった彼に、幸運が訪れますようにという意味を込めて提案してみた。
「おみくじの吉かぁ。いいね! ピッタリ!
よし! 今日から君はトラ吉君だ!」
「にゃあ」
あ、鳴いた。
もしかして気に入ってくれたのかな?
「素敵な名前をありがとう」
「いえ。喜んでもらえて良かったです。トラ吉をよろしくお願いします」
「はい。心から大切にします」