【短編】猫が運んだ淡い初恋
「タマがいたら少しはマシかもしれないけど……寝てたからなぁ」
タマというのは、マルの兄弟で、一緒にうちにやってきた白猫の男の子。
最初は車に慣れなくて怖がってたんだけど、疲れて眠ってしまい、今はお母さんと一緒に病院で待機中。
バッグをベンチに置いて腕時計を確認する。
まだ二十分はあるな……。
日射しが強くなってきたし、日陰に移動するか。
休めそうな場所がないか周りを見渡すと、木陰で腰を下ろしている女の人を見つけた。
その彼女の腕の中には──マルと同じくらいの茶色い子猫が。
「可愛い……」
あ、しまった。
慌てて口を押えたが、時すでに遅し。
声に気づいて顔を上げた彼女と目が合ってしまった。
このまま去るのも気まずいかなと思い、せっかくなので声をかけることに。
「こんにちは〜。その子……ベンガルですか?」
「はい。あ、もしかしてその中にいるのって……」
「猫ちゃんです。うちの子は黒猫です」