『オトメ♡研究同好会』の恋多き日常
 かれこれ十五分が経った。女装したまま校

内を回るのは気が引けるが、この後も休憩が

終わったら仕事しなければならないし、この

格好のまま行くとしよう。



「ゆづちゃん、お待たせ」

「陽太先輩、どちらに行きたいですか?」

「そうだな、少しだけオト研の縁結び神社

に、様子見に行ってもいいか?」

「わかりました。その後で良いのですが、行

ってみたい場所があります。お付き合いいた

だけませんか」

「あぁ、それじゃあ行こうか」



『オト女神様が結んでくれるよ♡縁結び神

社』に到着してすぐに、壁一面に掛かった絵

馬を眺めた。ふと、ある一枚の絵馬が目に入

り、しばらく目が離せなかった。そこに書か

れていた内容を、何度も何度も読み返した。



『二年五組の清水結月ちゃんと、お付き合い

できますように。 涼《りょう》』



何度読んでも、確かにこう書かれている。誰

かが、ゆづちゃんを狙っているというのか。

俺の可愛いゆづちゃんを…、どこぞの男なん

ぞに取られてたまるかっ。よし、俺も絵馬を

書いてみるか。ゆづちゃんに見つかると怒ら

れそうだから、ひっそりと人目のつかない場

所に掛けておくとしよう。それにしてもさす

がゆづちゃん、モテるんだなぁ、なんて思い

ながら先ほどの絵馬をもう一度読み返してい

た。



「陽太先輩…、願いを叶えるためなら仕方あ

りませんが、他人の願いをそんなにも凝視し

ては、可哀そうですよ。さあ、様子も確認で

きたことですし、そろそろ行きましょうよ」

「あぁ。ときにゆづちゃん、これからどこに

向かおうとしているのだろうか」

「それはですね…、着きました。ここです」



ゆづちゃんが勢いよく指さした、その先にあ

ったのは生徒会の企画、『ドキドキ クイズ

ラリー』だった。



「ネーミングセンス、ないな。俺だったらも

っと、かっこいい感じのにするんだがな。は

っはっは」

「先輩がそれを、言わないでください。先輩

が考えると、大変なことになるじゃないです

か。オト研の企画名が、物語っていますよ。

現実を、見てください。そんなことより、早 

く行きましょう」

「そんなことって…。俺の話はそんなことな

の?!」ゆづちゃんに引っ張られて、生徒会室

に入った。

「いらっしゃーい。クイズラリーの、参加希

望者?」

「はい」

「簡単に、ルール説明をしますね。まず、校

内のあちらこちらに問題が書かれた看板が設

置されています。その問題を解くと、暗号と

なる文字が一文字、現れます。看板に書かれ

た数字の順番にその文字を並べていくと文章

が出来上がるはずなので、完成したら生徒会

室に持ってきてください。この企画はペアで

協力してやってもらうことになっているの

で、この手錠を着けて、いってらっしゃー

い」



ガチャリ。突然、俺とゆづちゃんの腕が掴ま

れ、それなりに頑丈そうな手錠を嵌《は》め

られてしまった。



「はぁっ…?!手錠するなんて、聞いてない

ぞ」

「逃走防止用でーす。仲良く、頑張ってね」

「あのハイテンションな、副会長め。まんま

と嵌められたぜ、手錠だけに」

「…、寒いです」

「悪かったな、寒くて。じゃ、行くか」



歩き始めたそのとき、ゆづちゃんが俺の肩を

叩いてきた。



「陽太先輩、看板ってあれのことじゃないで

すか?」

「そのようだな。どれどれ、見せてみろ」

「その必要はありません。答え、わかりまし

たよ」

「速っ?!」



ゆづちゃんは俺より年下なのに、結構、いや

かなり頭が いい。俺に考えさせる隙を与えな

かった。そんなこんなで無事に全ての問題が

解き終わり、再び生徒会室へと向かった。



「お疲れ様ー、君たち、かなり早く戻って来

ましたね。最高記録更新したんじゃないです

か?それで、隠されたメッセージは何でした

か?」

「「月が綺麗ですね」」

「おぉ、息ぴったり。もしやお二人、カップ

ルさんですか?」

「違うわ。大体、こんな真昼間っから、月な

んか見えないんだよ。誰だよ、こんな悪意し

か感じられないメッセージを考えた奴は」

「はいはーい、私」

「副会長かよ」

「陽太先輩、よく見てください。今、窓から

真っ白な月が見えますよ」

「…、確かに」

「もう、そこの君。何ケチつけてくれちゃっ

てるんですか。いいじゃないですか、ロマン

チックで」

「すまん」

「それでは、参加賞のお菓子と、最高記録を

塗り替えた記念に特製ぬいぐるみをプレゼン

トー。おめでとう」

「ありがとうございます、副会長さん」

「なんだゆづちゃん、もしかしてその景品を

狙っていたのか。というか副会長、いい加減

この手錠、外してもらえないかな。忘れてい

るだろ」

「あら、ごめんなさい」

「いや、絶対わざとだろ…」



副会長が、どこからか手錠の鍵を持って来

た。それも、とてつもなく残念そうに。ガチ

ャリ、と鳴ってようやく解放された。



「手錠をしていたとき、先輩と手を繋いでい

るような錯覚に見舞われました」



そう言いながらゆづちゃんは、下を向いた。



「そんなに悲しそうに言うなよ」

「違うんです。嫌だったとか、言っているわ

けではないんです」

「…?」

「陽太先輩となら、手を繋ぐのも、嫌ではな

いというか…むしろ…」



ゆづちゃんが、何かに気づいたかのように顔

を上げた。そして、声がだんだんと小さくな

っていった。何だろう、と思って視線の先を

追うと、見知らぬ男が大きく手を振りなが

ら、走ってきた。

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