彩られてゆく世界に君とふたり
本物の笑
転校早々、人に囲まれた。面倒だなぁと思
いながらも、笑顔を張り付けてクラスメイト
の質問に答える。突然、ガタッと音がした。
隣の…名前は何と言ったか。彼が立ち上がっ
て、次の瞬間にはいなくなっていた。
「何よあの人、私たちが来た途端に嫌そうな
顔して。逃げなくたって良いじゃんね」
「女々しいって言うか、変わってるって言う
かさ…」
「笑ちゃんも、あの人とは関わらない方がい
いよ」
あぁ、どこの学校もこんな雰囲気なのか。こ
こでも友達はできないだろうなぁ。始めか
ら、期待なんかしていないけれど。そう思っ
たら、張り付けていた笑顔が剥がれ落ちそう
な気がして怖くなった。
「ちょっと、トイレに行ってくるね」
「えー、うちらもついて行くよ」
一人にしてよ。お願いだから。
「大丈夫だから。行ってくるね」
どこに行けばいいのだろう。トイレがどこに
あるのかすら、知らない。とにかく人がいな
い所に行きたい。
「こういう時は…やっぱり屋上でしょ」
ボソッと呟いてから、階段を駆け上る。そし
て、錆び付いた扉に手をかけると、軽く触れ
ただけなのにキィと音をがして、目の前が明
るくなった。あれ、誰かいる。動かないけれ
ど、寝ているのかな。様子が気になって近付
いてみる。もしかして、隣の席の子…?あ、
上履きに名前書いてある。
「高橋…若菜くん?」
そう言えばさっき、高橋くんって呼んだ気が
する。
「う~ん…」
どうやら起こしてしまったらしい。彼が動き
出した。
「高橋くん、だよね?隣、座ってもいい?」
無意識のうちに声をかけてしまっていた。次
に話す言葉が見つからなくて、困った。
「何?櫻井さん」
「あ、えっと…。こんな所で何してたのかな
って、思って」
「それは櫻井さんも、同じ」
「はは、そうだね…。高橋くんはさ、何の委
員会に入っているの?」
「入ってないよ、何にも。どうして?」
「いやぁ、さっきね、委員会決めろって言わ
れちゃって。あの、熊ちゃんとか呼ばれてる
先生に」
「あぁ、委員会の代わりに生き物係をやって
いるよ」
高橋くんって無表情だなぁ。変な意味じゃあ
なくて。私も無理に笑はなくていいから、喋
っていて疲れない。というかむしろ、楽しい
気がする。
「そうなんだ。私も、一緒にやっていい?」
「え?」
「嫌だったら全然いいんだけど」
「そんなんじゃなくて…。櫻井さんみたいな
人、今までいなかったから」
「いいの?一緒にやっても」
「僕以外に、誰もいないから。逆に、僕の方
からお願いしたいよ。誰かに手伝って欲しか
ったんだ」
「それじゃあ、よろしくね。ふふっ」
「どうしたの?」
「なんか、お互いにぺこぺこお辞儀している
のが、面白くて。ふはっ、駄目だ止まらない
よ」
「櫻井さんのツボ、浅いね」
櫻井さんって連呼されるの、慣れないからむ
ず痒い。
「ねぇ、高橋くん。若菜くんって、呼んでも
いい?」
「え…?」
こちらを向いた彼は、頬を真っ赤に染めて、
真ん丸な目をさらに大きく見開いて、これ以
上ないくらいに驚いた様子だった。
「凄く素敵な名前だなって、思って」
「やっぱり櫻井さんは、不思議な人だなぁ。いいよ」
そう言って、初めて笑顔を見せてくれたのだ
った。私は若菜くんといると、不思議な気持
ちになる。この人と、仲良くなってみたい。
そうしたらきっと、毎日が楽しめると思う。
あれ、私、いつからこんな風に思えるように
なったのだろう。若菜くんのおかげ、かな。
彼は私のことを不思議な人だとか言っていた
けれど、若菜くんの方がよっぽど不思議だ
よ。若菜くんのことを、もっと知りたい。
いながらも、笑顔を張り付けてクラスメイト
の質問に答える。突然、ガタッと音がした。
隣の…名前は何と言ったか。彼が立ち上がっ
て、次の瞬間にはいなくなっていた。
「何よあの人、私たちが来た途端に嫌そうな
顔して。逃げなくたって良いじゃんね」
「女々しいって言うか、変わってるって言う
かさ…」
「笑ちゃんも、あの人とは関わらない方がい
いよ」
あぁ、どこの学校もこんな雰囲気なのか。こ
こでも友達はできないだろうなぁ。始めか
ら、期待なんかしていないけれど。そう思っ
たら、張り付けていた笑顔が剥がれ落ちそう
な気がして怖くなった。
「ちょっと、トイレに行ってくるね」
「えー、うちらもついて行くよ」
一人にしてよ。お願いだから。
「大丈夫だから。行ってくるね」
どこに行けばいいのだろう。トイレがどこに
あるのかすら、知らない。とにかく人がいな
い所に行きたい。
「こういう時は…やっぱり屋上でしょ」
ボソッと呟いてから、階段を駆け上る。そし
て、錆び付いた扉に手をかけると、軽く触れ
ただけなのにキィと音をがして、目の前が明
るくなった。あれ、誰かいる。動かないけれ
ど、寝ているのかな。様子が気になって近付
いてみる。もしかして、隣の席の子…?あ、
上履きに名前書いてある。
「高橋…若菜くん?」
そう言えばさっき、高橋くんって呼んだ気が
する。
「う~ん…」
どうやら起こしてしまったらしい。彼が動き
出した。
「高橋くん、だよね?隣、座ってもいい?」
無意識のうちに声をかけてしまっていた。次
に話す言葉が見つからなくて、困った。
「何?櫻井さん」
「あ、えっと…。こんな所で何してたのかな
って、思って」
「それは櫻井さんも、同じ」
「はは、そうだね…。高橋くんはさ、何の委
員会に入っているの?」
「入ってないよ、何にも。どうして?」
「いやぁ、さっきね、委員会決めろって言わ
れちゃって。あの、熊ちゃんとか呼ばれてる
先生に」
「あぁ、委員会の代わりに生き物係をやって
いるよ」
高橋くんって無表情だなぁ。変な意味じゃあ
なくて。私も無理に笑はなくていいから、喋
っていて疲れない。というかむしろ、楽しい
気がする。
「そうなんだ。私も、一緒にやっていい?」
「え?」
「嫌だったら全然いいんだけど」
「そんなんじゃなくて…。櫻井さんみたいな
人、今までいなかったから」
「いいの?一緒にやっても」
「僕以外に、誰もいないから。逆に、僕の方
からお願いしたいよ。誰かに手伝って欲しか
ったんだ」
「それじゃあ、よろしくね。ふふっ」
「どうしたの?」
「なんか、お互いにぺこぺこお辞儀している
のが、面白くて。ふはっ、駄目だ止まらない
よ」
「櫻井さんのツボ、浅いね」
櫻井さんって連呼されるの、慣れないからむ
ず痒い。
「ねぇ、高橋くん。若菜くんって、呼んでも
いい?」
「え…?」
こちらを向いた彼は、頬を真っ赤に染めて、
真ん丸な目をさらに大きく見開いて、これ以
上ないくらいに驚いた様子だった。
「凄く素敵な名前だなって、思って」
「やっぱり櫻井さんは、不思議な人だなぁ。いいよ」
そう言って、初めて笑顔を見せてくれたのだ
った。私は若菜くんといると、不思議な気持
ちになる。この人と、仲良くなってみたい。
そうしたらきっと、毎日が楽しめると思う。
あれ、私、いつからこんな風に思えるように
なったのだろう。若菜くんのおかげ、かな。
彼は私のことを不思議な人だとか言っていた
けれど、若菜くんの方がよっぽど不思議だ
よ。若菜くんのことを、もっと知りたい。