離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます

　一か月ぶりにマンションに帰ると、

「お帰りなさい」

と、玄関先まで出迎えてくれたシエナを見て、思いがけないサプライズに、心臓が一瞬止まった。

　額に手を当て、目を瞑ると、耳まで火照るのを感じた。

「新妻のエプロン…… 」

　純白で、裾にレースが着いた清純な、エプロン。

　俺を誘惑する、天使が舞い降りたかと、錯覚する。

　シエナ…… 俺を殺す気か！

　
　二人でシエナの作ってくれた夕飯を食べ、ご機嫌に、幸せを噛み締めている時だった。

「蓮斗さん、相談したい事があるの」

　思い詰めた様な顔をした、シエナが心配になり、悩みでもあるのかと、頷いた。

「ああ、俺もだ。　最近連絡が取れなかったから、気になってはいたんだ。　どうした？　」

　言いにくそうに口を開くが、シエナの言葉にガッカリする。

「…… その…… 白鳥さんの事なんだけど…… 」

　「白鳥の事は、いい。　それよりも、俺達夫婦の話をしよう」

　秘書として戻って来たとは言え、まるっきり使えない白鳥の事なんて、どうでも良い。

　つい、アイツの事を言われて、不機嫌になってしまう。

「仕事が出来ないから、使えないから」

　この理由では、不当解雇になってしまうからな、中々クビに出来ないのが、事業主の辛いところだ。

　いや……、もしかしたら、

「重大なセクシャルハラスメント、パワーハラスメント」
「業務上地位を利用した犯罪行為」

　うん、この理由で処分出来るかも知れない。

　秘書の立場を利用して、グイグイッと迫ってくるからな、キモ……、いや、怖くて、精神的苦痛だ。

　顧問弁護士に相談してみるか。