離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます
「シ〜エ〜ナ〜ッ!! 」
メイク道具片手に、チーフは、三日月型に瞳を細め、口角を上げて笑っているが、何故か、その笑顔がとても怖い。
「お前は、社会人としての自覚があるのか?! 俺達の仕事は、お客様を綺麗にする事だろ? 綺麗にする側が、醜くてどうする?! 」
強制的に顔をグイッっと掴まれ、チーフの指の腹でグッグッっと、顔マッサージされた。
「……ったく、世話の焼けるヤツだな。 良いか、二日後の出発迄にはこの顔、ちゃんと治しておけよ! 」
「出発? 」
意味が分からず、ん? っと首を傾げる。
「お前も出るんじゃないのか? 社長が今、手掛けていた、海外の新規ホテルの、グランドオープンのパーティーに」
(そっか……、完成したって言ってたから、…… )
「…… いえ、私は何も聞いてません…… 」
瞳を左右に揺らし、上着の袖口をモジョモジョ弄り、動揺する。
そんな私に、チーフは、ニヤリっと微笑んだ。
「じゃ、尚更都合良いな。 ここから、手伝いで三人、あっちに行く様に言われてるからな、心置きなくこき使えるな! て、訳で、支度しとけよ」
「……私の技術じゃ…… 」
「大丈夫だ、フォローする 」
バフバフッっと、顔にパウダーを塗られ、
「ほら、これでいくらかマシになっただろ? さあ、働け! 働け! 」
僅か数分で、泣き腫らした、顔の浮腫みと、目の腫れを魔法の様に、隠してくれたチーフの技術は本当に凄い。
私もチーフみたいな、技術が欲しい!
「私には仕事がある! 自分の為にも、しっかりしなきゃ! 」