離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます

「まあ、シエナさんじゃない？　あなたこんな所まで追いかけて来るなんて、随分しつこいのね」

　聞き覚えのある声に振り向くと、その隣にいる人物を捉えて、ドキリッと、呼吸も心臓の鼓動も、一瞬止まった様な錯覚を覚えた。

「…… 蓮…… 斗さん…… ？　」

　彼の姿を目にして、ヒュッっと、息を呑む。

　寝室で二人きりの時にしか見せない、眼鏡を外した、彼が、白鳥さんと腕を組んで、歩いて来たのだ。


　彼の隣に、私以外の女性がいる…… 。


　二人の親密な雰囲気にハッとする。

（…… もしかして、姿を消していた間って、白鳥さんと一緒にいたの…… ？！　）

　自分から手放した現実が、目の前に広がり、身体中の血液が、逆流する様な思いが湧きあがって来る。

（嫌だ！　嫌だ！　）

　目を背けたい光景に、何度もクビを振る。

　頭の中が痺れて来て、心の中にポッカリッと、穴が空いた様に風が吹き抜けていく。
　
　嫉妬で、ガクガクッと、身体中が震え出して、自分の欲に、驚いた。

　切なくて悔しくて、やり場のない想いに、ギュッと手を握りしめる。


（ああ…… これが私の選んだ現実か…… ）


「離婚」

　その意味を、今やっと理解した。