離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます

ポロポロッと、涙が頬を伝って地面を濡らす。

「…… シーちゃん？　」

　名前を呼ばれ、ハッとして、慌てて、手で涙を拭う。

「…… うゔっ……っ…… チーフ…… 」

　平静を装い、声を上げるが、嗚咽混じりの声しか出なかった。

「…… っ！　またアイツか？！　」

　チーフは私の頭を後ろからグッっと、引き寄せると、そのまま自分の胸に押し付けた。

「…… 俺じゃ、ダメか？　」

「…… え？　」

　チーフの優しい声に、このまま身を委ねてしまいたくなる。

「俺なら、こんな風には一人で泣かせたりしない。　俺の所に、堕ちて来い！　」

　私は、顔を胸から離し、一歩下がって、距離を取ると、精一杯、微笑んだ。

「ありがとうございます。　凄く嬉しい……。　きっと、チーフとなら、毎日、暖かい気持ちに包まれて、幸せだと思う」

　チーフは目を見開き、私の言葉にジッと耳を傾ける。

「…… だけど、ダメなんです。　私の心の中は、やっぱり蓮斗さんしかいない……。　自分の気持ちに嘘を吐いて、チーフの手を取ったら、きっと後悔する。　だから…… ごめ…… 」

　ごめんなさい、と、続けようとした私に、

「わあーー、わあーーっ！　聞きたくない！！　　ダメ、今は返事要らない。　絆されて、流されてくれるのを、俺は待つ！！　」

　むんっ！　っと、口を引き結び、キリリッとした顔をする。


「…… 絆されて、流される、狡い女に、なれたら良かったんですけど…… 」

　眉毛をハの字にして、苦笑いをすると、お腹にそっと手を置く。

「おおぅっ！　マジか？！　」

　瞳をこれでもかと見開き、チーフは私のお腹をまじまじと見つめる。

　フーーーッっと、溜息を吐くと、ニッっと微笑んだ。

　「おめでとう！　…… で、良いんだよな？　」

　困った様に笑う私に、ん？　っと、片眉を上げる。

「…… ちょっと、遅かったかな…… 」