離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます
 今までの食欲不振は、神経的なものと、つわりの両方で、直ぐに悲しくなったり、浮上したりと、情緒不安定なのも、妊娠の影響だと、説明を受けた。

(妊婦って大変なんだな…… )

 母子手帳と、エコー写真を枕元に置いて、まだ膨らみのないお腹を摩ると、じんわりと、実感する。

 気だるさがあり、瞼が重くなって、直ぐにベットに横になる。


 ウトウトして、どのくらい時間が経ったのだろうか。

 ベットがギシリッと、軋む音がして、隣りに人肌を感じ、ビクリッと、跳ね起きた。

「キャアッーーーーッ?! 」
「うわっーーーーーっ?! 」

 驚いて、目をまんまるに見開いた私に、飛び込んで来たのは、見慣れたローブを着た男の姿だった。

「蓮…… 斗さんっ?! 」

 目をパチクリさせて、素っ頓狂な声を上げると、彼は私の手首を素早く掴み、ギリッっと締め上げた。

「痛っ……っ! 」

「ここで何してる?! 」

 腹の底から搾り出された、低く、怒りの篭った声に、ビクリッと身体を跳ねさせる。

「…… ごめんなさい、帰国したばかりで、まだ部屋が決まっていなくて…… 」

 私の言葉に、蓮斗さんは眉間に皺を寄せて、ジーッと私の顔を見つめた。

「…… どう言う意味だ? 君は、ここに住んで…… いるのか? 」

(…… そうですよね…… いつまでも居座り続けてるなんて、不快ですよね…… )

「…… 直ぐに、出て行きますから」

 離して下さい、と、掴まれた手を、引き戻そうとすると、ギリリッと、更に強く掴まれる。

「質問に答えろ! 」

「キャアッ! お願い…… 乱暴はしないで……っ! 」

 お腹を守ろうと、身を捩りると、バサっと、母子手帳とエコー写真がベットの下に落ちた。

「あ……っ! 」

 小さく声を上げた、私の手を離すと、蓮斗さんが、それを拾いあげ、ジーッと見つめた。

「…… すまない、手荒な事して…… 怪我はないか? 」

「いえ…… 大丈夫です」

(…… 最悪だ…… こんな形で妊娠してる事がバレるなんて…… )

 なんて言っていいのか、グルグルと、頭の中をフル回転させる。

「…… 君は…… 誰だ? 」

「は?! 」

 いくら白鳥さんと上手く行ってるからって、流石に酷くないか?! と、眉毛を吊り上げ、キッっと、睨む。

「えっと…… 貴方の…… 妻です…… か、ね? 」

 そう言えば…… と、ハッとする。

「多分…… まだ…… ? 」

 離婚届を提出したか、確かめてなかったので、もしかしたらもう、提出したかもしれない。

 そう思って、急に弱気になった。






 


 

 
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