離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます
「どこへ行く? 」

(あれ? 前にもこんな事があったような…… )

「荷物を纏めようかと…… 」

 キョトンとする私に、ドキリッとする事を告げる。

「お腹の子は…… 俺の子、だろ? 」

 ビクリッと身体を跳ねさせ、壊れた人形の様に、ブンブンッと、首がもげるぐらいの勢いで、横に何度も振る。

「イエ…… チガイマス…… 」

 確かに蓮斗さんの子だが、私の知ってる彼は、眼鏡を掛けて、無の表情をしていた。

 今の、喜怒哀楽をハッキリと現す彼は、まるで知らない人だ。

 彼の子であって、彼の子ではない。

 それなら、この子の親は私だけだ。

 目の前にいる、蓮斗さんには関係ない。

 そう思い、即答した私に蓮斗さんは、カッと瞳を見開くと、喉の奥から、怒りを含ませた低い声を絞り出した。

「浮気してたのか?! 」

(お前がな!! )

 心の声を大にして叫びたいのを、グッと飲み込み、私は即座に、スンッとなる。

「この子は、私の…… 、私だけの子です。 申し訳ないですが、今の貴方は、私の旦那だった蓮斗さんでは有りませんので、気にしなくて大丈夫です。 ……それに、まだ産むか…… 決めてませんし…… 」

 最後の方は、言葉にするのも苦しくて、呟くような、小さな声になってしまった。

「…… 産まない気か?! 何故だ?! 」

「…… それを私に言わせるのですか? きっと記憶が戻れば全てわかる筈。 そうなった時に、この子が貴方の子だとわかったら、きっと貴方も白鳥さんも、そして私も苦しむ事になるわ。 それならいっそ…… 」

(…… 嘘…… 本当は産みたい…… ううん、産む! その為には、貴方とは二度と会わない方が、お互いの為)

「ふざけるな! その子は俺の子だ! 勝手に諦めるのは許さない! 記憶が戻れば、全てがわかると言うのなら、君が、シエナが俺の側にいろ。 記憶を戻すのを手伝え! 」

 蓮斗さんは、私の言葉をピシャリッと、否定した。

「ええええーーーーっ?! 」
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