離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます
 俺は、慌てて自室に飛び込んだ。

 大事な物は大概、デスクの鍵の掛かる引き出しに、保管してある。

「他人になる?! ダメだ、ダメだ」

 直感的に、それは絶対にしてはいけない、と記憶の中の俺が言う。

 彼女と離婚したく無いと思ってたなら、離婚届もそこにある筈だ。

 ガタガタッと引き出しの中を漁る。

 「…… あった! 」

 ホッとした俺は、余裕が出て来て、徐にデスクの上に目を落とす。

「…… おおぅっ! 」

 目の前には、彼女の写真がズラリと並べられている。

 やっぱり、彼女と俺は仲の良い夫婦だったんだなと、うん、うんっと頷いて、部屋の中を見回した。

 だが、しかし……。

 自室の光景に、あんぐりっと口を開けて、固まった。

 傍にあるガラスキャビネットの中には、女性物のハンカチや、ワイングラス、靴下にボールペン、メイク用品、更には、お菓子の包み紙まで、大切そうに保管されていた。

 おそらく、イヤ…… 、考えなくとも一目瞭然、彼女との思い出の品だ。

 …… うむっ…… 俺、相当ヤバいな…… 。

 俺、彼女の事、好きが過ぎるだろ?

 自分の執着心の深さに、思わずフッっと、笑いが込み上げてくる。

 うん、この部屋は絶対に、鍵を掛けておかないとな…… 。

 記憶を失っても、一目で彼女に惹きつけられた。

 女嫌いの俺が、これ程までに感情を揺らすなんて…… 。

 これが一目惚れというヤツなのか…… ?!

 好みのタイプだと言うのもあるが、一番はやっぱり、仕事に誇りを持って、自分の足で、意志で、凛として輝いているところが、最高に良い。

 俺は瞳の奥に、欲の炎を揺らめかした。

 絶対に離さない!

 


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