離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます
 あれから強がって、毎日、仕事に出勤しているが、蓮斗さんの心配は半端ない。

 朝は、出勤時間を私に合わせて、必ず車で送迎してくれる。

 しかも、ドアまで開けてくれ、「んっ」っと、手を差し出してエスコート。

「ここからは一人で行きますから」

「いや、何かあったら大変だからな。 入口まで付き添う。 ムッ、ここの段差は危ないな。 この花瓶は撤去だな…… 」

 一人、ブツブツ呟きながら、毎日、過保護が加速する。

 私は要人か?! と勘違いするくらい。

 もはや、介護の域だ。

 ブライダル部門の入口まで来ると、チュッと唇にキスを落とす。

「無理するな! いいな、何かあったら直ぐに連絡するんだぞ」

「そんな、怖い職場じゃないですよ」

「社長! 時間です! 今日は朝から、お約束がありますから急いで下さい! 」

 半ば呆れ気味に微笑んで、手を振り、秘書に引き摺られて去っていく蓮斗さんを見送るのが毎日の光景となった。

「やっぱり、護衛を雇うか…… 」

 引き摺られながらも、ブツブツと呟く蓮斗さん。

「重っ!! 愛が過ぎるな…… 」

 チーフが、面白そうにニヤニヤと揶揄う。

「本当に…… 。 まさかあんなに、人が変わるとは思わなかったです。 記憶喪失、怖すぎます…… 」

 眉毛をハの字にして困惑する。

「いや、前からあんなだろ? 前は表情が無だったから、わかりずらかったが、潜在意識の中にあったんだろ。 特にシーちゃんに対しては素直過ぎるほど、出て来たってだけで、あれも社長の一部だろ? 本質は変わってないな」

 チーフの言葉に、納得する。

(…… 確かに、無の表情だったけど、グイグイ来るところや、私を気遣ってくれるところは変わってないな……。 結局、どっちの蓮斗さんも、変わらず私は、す、す、好きだって事、よ、ね? )

 一人ニマニマしながら顔を赤らめる私を、チーフは、チッと舌打ちしながら呟いた。

「弱ってる今につけ込みたかったのに…… 、入る隙なしか…… 」
< 155 / 205 >

この作品をシェア

pagetop