離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます
 臨月までは……と、意気揚々と毎日職場に向かうのだけど、最近の私は完全に、職場のお荷物、戦力外。

「ウウウウ……ッ…… ずびばせん…… 」
 
 いつもは良い香りに感じる、化粧品の匂いが、最近ではやけに鼻について、気持ち悪い。

 「無理すんな。 幸い今は、そんなに忙しい時期じゃないから、体調と相談して有給取れよ」

 「そうよ。 たかが悪阻と侮っちゃダメよ。妊娠中は体調も、体型も今までと変わってきて、戸惑いも増えるからね」

「そうそう、意外とそれがストレスだったりするのよ。 気分の浮き沈みも激しくて、たいした事じゃなくても泣けてきたり、鬱ぽくなる人もいるくらいよ」

 チーフと子供のいる先輩達が優しくて、ホロリッと涙が溢れた。

「あれ……? 」

 泣くつもりなんてないのに、頬を伝う涙に驚く。

「ほら、それよ、それ。 ちょっとしたことで感情が揺れるの。 そう言う時は遠慮しないで周りに頼るのよ。 ま、一番頼るのは、旦那ね。 この機会に、思いっきり甘えちゃいなさいよ」

 先輩に言われて、今度は自分でもわかるくらいに、気持ちが揺れた。

(あ、甘えるなんて、無理無理! 白鳥さんに気持ちがあるのに、子供が出来た義務感で、一緒にいてくれる蓮斗さんに頼るのは、なんか違くないか? ……でも、蓮斗さんが記憶を取り戻す為だから、良いのか?)

 うーん……、うーん……。 悩み過ぎて、頭まで痛くなって来た。

「シーちゃん、顔色ヤバい、今日はもうあがれ! 」

 心配そうにチーフに覗き込まれ、役立たずな私は、お言葉に甘えて早退させて貰った。

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