離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます
無の顔で、お礼を言う男を、よくよく見ると眼鏡の奥で、少し吊り目がちな、切長な瞳を力強く輝かせ、鼻筋が通ったクール系イケメンだ。
アッシュグレージュの、透き通る様な髪がとても似合っていて、彼の知的さを更に引き立ていた。
(ん? あれ…… 、この人…… どっかで見たことある様な…… うちのお客様で来た事ある人かな? )
でもこんな印象的なイケメン、会ったら忘れなそうだけどな…… ウーン……ッと考えを巡らせていると、男が私の胸元の名札に気が付いた。
「君は、うちの社員だったのか。 もしかして彼女が外交官の娘だと知っていて、声を掛けてくれたのか? 」
男の問いかけに、外交官……⁇ とこれまた頭にハテナマークが浮かぶ。
(いや、知らんし…… )
「…… いえ、彼女は本当に偶然見かけただけで……。 無事にお父様が見つかって良かったです。 …… それで……、私の誤解は解けた様なので、もう行っても良いですか? 昼休み終わる前に何か口にしたいので…… 」
「…… いや、私はお父様ではくて…… 」
男が小さく呟いた。
「…… それは失礼しました。 では…… 」
(まあ、私にはどうでも良いけどね )
「君は…… 私を知らないのか? 」
顔は相変わらず無で、分かりずらいが、男は驚いている様だった。
(もう一度言うけどね、いや、いや、あなたの事も、知らんし…… 。 イケメンって自分の事覚えて貰えてるってのが、当たり前の世界なんだなぁ…… )
ペコリッと、男に頭を下げてから、女の子に視線を合わせる。
「今度は迷子にならない様にね。 またね! 」
女の子の頬をツンッと一回突き、その場を後にした。