離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます
 心臓がギュウゥゥッと、切なく鳴いた。

(ああぁぁ……、こんな激しい執着心を見せられて、喜んでいる自分がいる)

 眉を八の字にして、フッと口元を緩める。

(…… 記憶を失っても、何度でも愛するなんて、こんな激しく、怖いくらいに執着されたら…… 、これもう、ダメなやつだ。 逃げられない…… )


「…… 私は何も持っていない……。 蓮斗さんと並ぶ地位も名誉も何もない」

「うん? そんなものは必要ない。 必要ならば俺は、自分の手で掴み取るからな」

 自信過剰な言葉も、蓮斗さんなら本当に、実現するだろう。

 「仕事も辞めたくない。 私は蓮斗さんのやりたい事を応援する。 だけど、私も私のやりたい事を諦められない」

 我が儘だと言われても、これだけは私が私である為に譲れない。

「本当は、閉じ込めて誰の目にも、触れさせたくない。 だが、俺が惚れたのは、楽しそうに、誇りを持って、自分の足でしっかりと立っている、シエナだ。 縋って甘えているだけのお前は想像出来ないな。 それを奪おうとすれば、お前は簡単にスルリッと、俺の手をすり抜けて行くだろ? 」

 口角を上げ、フッと口元を緩めて、私の髪を愛おしそうに梳く。
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