離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます
さまざまな声が飛び交う中、社長がジッと私を見つめ、
「結婚してくれるな? 」
耳元で囁かれた。
私は、ギギギギッ…… と、油の切れたブリキの人形のように顔だけ動かす。
「イエ、ケッコウ、デス…… 」
片言でそれだけ言うのが精一杯だ。
「…… 結婚するな? 」
社長はギラリッと眼鏡の奥の瞳を光らせ、獲物を捕食する獣の様に、私に詰め寄って来る。
「…… 社長なら、この中から、選び放題じゃないですか。 なんで私なんか…… 」
「お前で良い。 お前が、良いんだ」
耳元で囁いて、チュッとキスを落とす。
「ひゃーああぁぁーーっ! こ、こんな大勢の前でな、な、何を!! 」
もう、頭に血が昇り過ぎて、意識が朦朧として来た。
「シエナ、結婚してくれ」
社長の言葉が呪文の様に、繰り返され、思わず、コクリッと頷いた。
ハッとして、慌てて否定する。
「イヤーーーーッ! 待って、今のやっぱ無し!! 」
「結婚するだろ? 」
(ああぁぁーーっ、プロポーズされてるのに、脅されてる気がするのは何故? そしてそれが嫌じゃない私って…… )
「よ、喜ん…… で? 」
ククッ……ッと、口角を少し上げて、嬉しそうに声を漏らして笑う社長が、少し幼く見えた。
(こ、ここで笑うとか、反則じゃないですか?! )
「…… ギャ、ギャップ萌え?! なんかその笑顔、狡いと思います…… 」