離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます
「立てるか? 」

 SPが手を離したので、手を差し伸べたが、その手を無視し、彼女は毅然とした態度で、立ち上がった。

 その行動に、俺は驚いて瞳を見開いた。

(…… この俺を無視するだと?! )

 声を掛ければ、キャーキャーと群がり、媚びる。

 目が合えば、抱きついて、縋り付いて来ようとする。 

 こちらの意志を無視して、好意と言う、無神経な感情を露わに、迫ってくる。

 そんな女しか、周りに居なかった。


 お陰で、感情を顔に出すのが怖くなり、表情がなく、冷たいと言われる事が多くなった。

 それもまたクールでステキ! と近づいてくる女もいて結局、変わらないが……。

 仕事的には、ポーカーフェイスが丁度良いから、大いに役に立っている。


 そんな中での、この態度。

 (新鮮だ…… !)

 俺は、シエナに俄然、興味が湧いた。

 胸元を見ると、名札がついていた。
ブライダル部門、メイクアップアーティスト、中園シエナ。

(うむ。 彼女に相応しい、可憐な名前だ…… って、イヤイヤ、イヤ、何を言っているんだ、俺は)

 フルッっと、小さく頭を振る。



 
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