離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます
「君は、うちの社員だったのか。 もしかして彼女が外交官の娘だと知っていて、声を掛けてくれたのか? 」

(…… 彼女も他の女と一緒で、この素気ない態度は、計算かも知れない)

 冷静になれ! 自分に言い聞かせる。


「…… いえ、彼女は本当に偶然見かけただけで……。 無事にお父様が見つかって良かったです」

「…… いや、私はお父様ではなくて…… 」

(まさかの、父親認定?! いや、確かにアラサーだが、こんな大きな子が…… いても、おかしくは、ない、のか…… なんだ? このモヤッっとした気分は…… )

「…… それは失礼しました。 では…… 」

 シエナは、手荒な真似をした俺に、怒る事も責める事もまして、擦り寄るでもなく、その場を去ろうとした。


「…… 君は…… 私を知らないのか? 」

 思い出そうとしたのだろうか? 一瞬思考を巡らせたようだが、すぐに、俺から目を離し、考えるのを放棄したようだ。 

 いや、待て! もう少し考えてくれ…… 。 

 またね! と、マリーに微笑むと行ってしまった。 

 くっ……、なぜその笑顔を、俺に見せない……。

「あ…… 」

 正直、もう少し話がしてみたかった。

 彼女は他の女と違って、発情期の獣の様にならないから、きっと落ち着いて、会話が出来るだろう。

 しかし…… 流石にあの態度は、あんまりだ。

(…… 就任したばかりだから、社長の顔を認識してないのは仕方ないな。いや、それでも、一目見ても、全く興味を示さないじゃないか?! 塵ほども、俺に、興味が、ないのかーーっ?! )

 こちらを一瞥もせずに、去っていったシエナに、寂しさを覚えた。

 うむむむーっ…… と、思考を巡らせて、ハッとなる。

(SPに拘束させた男を、警戒するのは当たり前か…… )

 うん、うん、と1人納得をする俺を、マリーが隣で、死んだ魚の目をしていたのを、気づかないフリをした。

 
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