離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます

 シエナが去った後、彼女が落としていった、口紅と紅筆を拾った。

 マリーが、返しに行くと言うのを、やんわり、いや……、割と強引に、引き止めた。


 もう一度、彼女に会いたかった。


 すぐさま、メーカーを確認し、新しいものを用意した。

 即日完売した人気商品で、入手困難との事だったが、ラッキーな事に、新規ホテル事業のアメニティを、お願いしていたメーカーだった。

 俺は、有無を言わさず、手を回した。

 女の為に、みずから根回しするなんて、初めての事で、自分の豹変ぶりに、笑えて来た。

 ただ、シエナの喜ぶ顔が、見たいと、その思いだけだった。

 のに……、

「これは頂けません。 私がした事はあの子に笑顔になって貰いたかっただけで、ただのお節介です。 社長の為じゃ有りませんし、無くしたのは私の不注意ですから 」

 シエナの言葉に、驚いて瞳を見開き、固まった。
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