離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます
 蓮斗さんが海外へ行ってから、暫く経った頃だった。


「嘘でしょ?! 貴方まさか、蓮斗さんを一人で海外赴任させたの?! 」


 お昼を食べようと、ラウンジに来た私は、秘書だった白鳥さんと、偶然、顔を合わせた。

「白鳥さん…… 。 ええ、私にも仕事があるので…… 」

「仕事ですって?! 」

 白鳥さんは、切長の瞳を大きく見開き、口に手を当てた。

「…… 信じられないわ…… 。 妻たるもの、夫に尽くすのが務めですわ。 貴方のような、薄情な方を、なんで蓮斗さんが選んだのか、検討もつきませんわ。 私の方が、貴方より何倍も蓮斗さんの事、わかっているのに……っ! 」

 キッっと睨まれたが、白鳥さんの言う事は、普通の妻なら最もな事だ。

「…… やっぱり…… そう、です、よね…… 」

 自分でも、酷い妻だな…… と思うけど、自分で選んだ事だから、仕方ない。

「可哀想な蓮斗さん……、こうしちゃいられないわ。 剣菱の叔母さまに相談しなくっちゃ。 失礼…… 」

 フンッと、私を一瞥すると、白鳥さんは、お義母の元へ向かって行った。

「…… お義母様とは、まだ仲良しなんだ…… 」


(…… やっぱり、蓮斗さんも白鳥さんのような、家柄の釣り合った人と、結婚した方が幸せだったんじゃないかな…… )



 電撃結婚だったから、世間一般のカップルのような親密な時間も、お互いを分り合う沢山の会話も、デートらしいデートもしていない。

 心にわだかまりを持ちながら、結婚生活は続く。


 お互い初々しいまま、遠距離恋愛に近い結婚生活で、倦怠期もまだまだ縁遠いと、感じているまま。

 ………… 気づけば、結婚からもうすぐ三年になろうとしていた。
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