離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます
「シエナ、体調悪いのか? 」

 蓮斗さんが、空港に見送りに来た私の額に手を当てる。

「熱はないようだな…… 」

「…… 大丈夫よ、蓮斗さんと来月まで会えなくなるのが寂しくて、ちょっとブルーなだけ 」

 エへへッっと、慌てて微笑む。

(いけない、いけない。 最近、気分の浮き沈みが激しくて困るわ )

「…… 行ってくる。 向こうに着いたら連絡する」

 名残惜しそうに、私の頬を一度撫でると、搭乗口に向かって行った。

 蓮斗さんの姿が見えなくなるまで、見送った後、一人で部屋に帰る時間が一番切ない。

「あと何回見送れば、一緒に暮らせるのかな…… 」

 トボトボッと、歩き出した私の耳に、聞き覚えのある、甲高い声が聞こえて来た。

「シエナさんじゃない? 一人? 蓮斗さんは? 」

 キョロキョロッと、忙しく顔を動かし彼女は蓮斗さんを探す。

 小ぶりの、ボストンバックを抱えた彼女に、尋ねる。

「白鳥さんは、ご旅行ですか? 」

「…… 旅行……… 。  ええ、まあ、恋の逃避行とでも言うのかしら。 ウフフ……ッ 」

 意味不明な事を言っているが、とても嬉しそうに微笑む彼女。

(彼氏でも出来たのかな…… ? )

「そう、です、か? 」

「貴方は相変わらず、お留守番なのね。 剣菱の叔母さまから聞いたわよ。 あ、もうお義母様と呼んだ方が良いかしら」

 ウフフ……ッっとまたもや、キラキラとした笑顔を見せる。

「子供が出来ないんですってね。 だから、蓮斗さんも、あっちに呼び寄せないって言ってたわ。 役立たずは必要無いってね。 女としての役目が果たせないんじゃ、仕事するしか無いものね。 惨めね、貴方」

「いら……ない…… ? 役……立たず…… 」

(嘘…… 蓮斗さんはそんな事一言も…… )

 ハッとして、ガクガクッと、身体中が震え出す。

(そう言えば、昨日は最後まで、してくれなかった…… 私に、飽きた? 私が…… 女として役立たず、だから…… ? )

 頭が真っ白になって、顔から血の気が引くのを感じた。


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