離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます
「痛っ……! ちょっと、貴方、さっきから髪の毛、引っ張り過ぎなんだけど! 」

「あ……っ! も、申し訳ありません、お客様」

「貴方があの女優の結婚式で、メイクと、ヘアを担当したって聞いたからお願いしたのに、噂程じゃなかったわね」

「お客様、大変失礼致しました! お詫びと言ったら何ですが、こちら、新製品のトリートメントです。 香りが良く、しっとりとして艶やかな手触りになるとかなりの評判なんですが、本日サービスさせて頂いても宜しいでしょうか? 」

 チーフが私のミスに、すかさずフォローを入れてくれた。

「あら、そう? ……まあ、貴方も、次から気を付けてくれれば良いわ」

「はい…… 申し訳ありませんでした」

 もう一度、頭を下げ、チーフと入れ替わる。

 チーフと目が合って、顎でクイッと、反省して来い! と、合図され、事務所に下がった。


(…… 何やってるんだ、私は…… こんな初歩的なミスするなんて…… )

 つい、溜息を吐きそうになって、違う、違う! と、フルフルッと頭を振る。

(ここは職場だ! プライベートな感情を引きずるな!! )


 自分で築き上げた信頼も無くしたら、何の為に、蓮斗さんに寂しい思いをさせてまで、日本に残ったかわからない。

(自分の居場所を、自分で無くして、どうするんだ! )

 パン、パンッと、自分の頬を両手で叩く。


 
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