離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます

「プルルーーッ、プルルーーッ」

　さっきから、携帯が何度か、着信を告げていた。

《蓮斗さん》
《お義母様》
《お義母様》
《蓮斗さん》
《お義母様》

　留守電を再生してみる。

「シエナさん？　離婚の事、考えてくれたかしら？　結菜さんも私も、楽しみに待ってるのよ」

　お義母様からの、留守電は案の定、離婚についてだった。

　留守電を聞きながら、深い穴に落とされて、もがいてももがいても、這い上がれず、段々と沈み込んで行ってしまう様な、錯覚を覚えた。

「ダメな嫁で、ごめんなさい…… 」

　一人呟いて、どうにも、やり切れない気持ちになる。




「明日、帰る」

　久しぶりに聞く、留守電に吹き込まれた、蓮斗さんの声も、心の奥をザワザワと揺さぶる、悲しい音に聞こえる。
　

　（嬉しい筈の、蓮斗さんの帰国が、こんなにも苦しいなんて…… ）

　結局、また、どちらにも返事は出来ずに、モヤモヤと湧いてくる、暗い終末感に一人呑み込まれる。