「今日、クリスマスってよ」
「べ、っつに泣いてねーし」
「はいはい」
瀬尾がぐしぐしと目を擦りながら反論するけど、先輩はそれを気にも留めない。
それだけで、あぁ、とどこか納得した気持ちが湧き上がってくる。
きっとこれは別に珍しいことなんかじゃなくて。
私の知らない瀬尾を、佑香先輩は知ってるんだ。
2人で築き上げてきたものが垣間見えてしまって、胸がぎゅっと苦しくなった。
「てか2人で座り込んで何してんの?」
ひゅっと冷たい空気が喉から胸まで一気に突き刺さる。
彼氏が他の女と2人きり。
しかも自分を放置して。
こんな状況なら、誰だってそう聞く。
そう、当たり前の質問だ。
そしてその当たり前の質問に胸がちくちくと痛むのは、私にやましい思いがあるからだ。
「ごめんなさい、何でもないです」
立ち上がってそう言えば、なぜか先輩が驚いたような顔をするから少しだけ気まずい。
そりゃそうだよね。
普通、信じられないよね。
でも本当に何もないんです。
ひとつ何かあるとしたら、私が瀬尾を好きになってしまったことだけだから。