「今日、クリスマスってよ」

「私はもう帰るので……」

だから安心して下さい。
そんな意味を込めてその場から逃げようとする。


でも、それは許されなかった。


「待って」

そう言って私を引き留めたのは、佑香先輩。

流石にこのまま逃げ切れるとは思っていなかったので、震える足に力を入れる。


……なんて言われるんだろう。

もう瀬尾に近づくなとか?

それとも、引っ叩かれるのかもしれない。

怖くて涙が出そうになるのをぐっと堪える。

だって私は傷つく立場なんかじゃない。
傷ついたのは、先輩の方だから。


「はいこれ」

でも、私の心配してることは何ひとつ起こらなくて。


「え?」

"これ"といって渡されたのは、ポケットティッシュ。


えっ、えっ?
どういうこと?

これで何かしろってこと?

なかなか受け取ろうとしない私に、もう一度ほらと言って差し出してくる先輩。

それを無視することもできず、結局よくわからないまま受け取ってしまう。

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