「今日、クリスマスってよ」

「はぁ、はっ……」


吐く息が白い。

走ってるせいで肩にかけた鞄が揺れて、中身がガチャガチャと音を立てる。


"拓真!"

はっきりと耳に残る先輩の声が。

"佑香!?"

私の知らない名前を呼ぶ瀬尾の声が。


さっきの光景が、頭から離れない。


自分に都合の悪いことから逃げたくて、見なかったことにできないかと目を閉じてしまいたくて。


それなのに目を閉じれば見たこともないはずの、2人で並んで歩く姿が鮮明に想像できてしまって、それを振り切るように走る足を止められない。


高身長の美男美女。

……多分、ああいうのをお似合いって言うんだろうな。


きっと2人は、今日、デートの約束をしていて。

なのに瀬尾が補習になっちゃったから、終わるのを待ってたんだ。

瀬尾がずっとクリスマスを強調していたのは、せっかくのデートが補習で遅れることにうんざりしたからで。

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