記憶のカケラを拾って
「なんでだよ…」

「え…?」

「なんで…泣いてる…?」

「えっ、私、泣いて…る?」

っ!!!
愁の温もり、匂い。
久しぶりだ。

「…愁。」
口からこぼれた大好きな名前。
無意識だった。
私、こんなにも愁を求めてる。

「やめろよ…俺だって我慢してんのに…音。」

「っ…」
しばらく愁の腕の中で泣いた。
どれくらい経っただろう、もうそんな感覚もない。ただただ涙が止まらなかった。

愁の好きだって気持ちを否定したこと、自分の気持ちを否定したこと、梨奈を裏切ってしまうこと、本当は私が泣いちゃダメなのに。
そう思えば思うほど涙は止まらなかった。

「落ち着いたか?」

私は頷いた。

「そっか。…あのさ、聞いて」

「う…ん。」

「音が俺を思い出してくれた時すっごい嬉しかった。正直、音が記憶をなくしてからは立ち直ることが出来なかった。でも少しでも未来があるならって思って信じて音を待ってたんだ。そしたらさ、音は俺を思い出して、また大好きだって言ってくれた。戻ってきてくれたんだ、俺の元に。またこれから音を1番近くで感じられるって思った。なのに音は戻ってきたんじゃなかった。俺は音が好きで大切。それはこれからも変わらない。音を離したくない。それは…音も。だろ?ちがう?」

「っ!!」
そう…だよ。
私、全然吹っ切れてなかった。
今もずっと愁が好き。

「俺は音が俺を忘れたこと、なんにも思ってない。でも俺が苦しい思いをした分、音が苦しい思いをするっていう音の考えがムカつく。興味ない女押し付けてお幸せにって笑う音がすごいむかつく。」

ぎゅーっ。
さらに強く抱きしめられる。
温かい…。

「笑えてないんだよ、我慢できてないんだよ、ばか。」
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