片想い婚
それでも彼女は何も言わずにっこり笑った。
「入って入って〜お茶とお菓子ぐらい出せるよ!」
「急に来たのにすみません」
「いいって。どうぞー」
部屋に足を踏み入れる。どこか可愛らしい部屋が目に入った。置いてあるインテリアやカーテンのデザインなど、蓮也が住んでるとは思えないものばかりで少し笑ってしまう。恐らくお姉さんの趣味だろう。
「どうした」
「いや、お部屋可愛くてびっくりしちゃった。蓮也が住んでるなんて」
「全部あの人が決めたからな」
蓮也は不服そうに言う。それにまた笑ってしまった。きっとお姉さんには逆らえないタイプなのだ。でも一緒に暮らしてるぐらいだから仲がいいんだな。
私はテレビの前にあるソファに座らせてもらった。早速お姉さんがお茶を持ってきてくれる。それと焼き菓子が入ったお皿も。
「あ、ありがとうございます!」
「いいのよー。可愛い女の子は大歓迎! ゆっくりしてっていいんだよ」
優しく笑いかけてくれるこの人は、きっと何か勘付いているなと思った。そりゃあの荷物と目を赤くした私をみれば分かってしまうか。私は頭を下げた。
「じゃ、今日私は夜に帰るからね。泊まっていくなら全然泊まってくれていいから! 蓮也は変なことすんなよ」
「うるせえなバイト遅れるぞ」
「ったく口が悪い弟だなほんと。可愛い妹とかならよかったのに」
ブツブツいいながらお姉さんは鞄を手にする。そして私にだけ爽やかな顔で手を振ると、そのまま家を出て行ってしまったのだ。
私はといえば、二人の仲のよさにまだ笑っていた。私とお姉ちゃんとはまた違ったタイプの姉弟。でも、姉には敵わないという立場はすごく理解できる。
蓮也は気まずそうに言った。
「ごめんうるさくて」
「全然。相変わらず面白いお姉さんだよね。私好きだな、もっと話したかった」
「姉ちゃんも言ってたけど泊まってけよ。夜ゆっくり飯でも食って話せばいいじゃん」
サラリと誘ってくれたことに感謝し小さく頷いた。目の前に出されたお茶をそっと一口啜る。少し苦い緑茶が私の心を少しだけ落ち着けてくれた。
隣に座った蓮也も、自分でいれたと見られるグラスのお茶を飲んでいた。私の前に置かれた焼き菓子を手に取り、無言でもぐもぐと食べ始める。彼のいつもと変わらない態度に、私はなんだ嬉しく感じて微笑んだ。
そんなこちらの様子に気づき、蓮也が言う。
「なに?」
「ううん。普通に接してくれて蓮也は優しいなあって」
「別に。中学からの長い付き合いじゃん」
甘そうなお菓子を食べながらやや早口で蓮也が言った。私は両手でお茶を包み、少しだけ俯く。
一度は私のことを好きだと言ってくれた蓮也に、こんな話をしていいのかという疑問はある。ここまで着いてきてしまいながら、自分の行動が軽薄なんじゃないかと思うが、それでも今は他に頼れる人がいなかった。
私たちの奇妙な結婚のきっかけを知る知人は蓮也しかいない。結局他の友達にも説明できていなかったんだ。
この約三ヶ月、ただ必死で。毎日が必死で必死で、何も気が回らなかった。結婚したという事実を友達に説明することさえできなかった。
「……離婚した」
私がポツリと呟くと、お菓子を食べていた蓮也の手がピタリと止まった。彼はゆっくりこちらを見る。苦笑して続ける。
「入って入って〜お茶とお菓子ぐらい出せるよ!」
「急に来たのにすみません」
「いいって。どうぞー」
部屋に足を踏み入れる。どこか可愛らしい部屋が目に入った。置いてあるインテリアやカーテンのデザインなど、蓮也が住んでるとは思えないものばかりで少し笑ってしまう。恐らくお姉さんの趣味だろう。
「どうした」
「いや、お部屋可愛くてびっくりしちゃった。蓮也が住んでるなんて」
「全部あの人が決めたからな」
蓮也は不服そうに言う。それにまた笑ってしまった。きっとお姉さんには逆らえないタイプなのだ。でも一緒に暮らしてるぐらいだから仲がいいんだな。
私はテレビの前にあるソファに座らせてもらった。早速お姉さんがお茶を持ってきてくれる。それと焼き菓子が入ったお皿も。
「あ、ありがとうございます!」
「いいのよー。可愛い女の子は大歓迎! ゆっくりしてっていいんだよ」
優しく笑いかけてくれるこの人は、きっと何か勘付いているなと思った。そりゃあの荷物と目を赤くした私をみれば分かってしまうか。私は頭を下げた。
「じゃ、今日私は夜に帰るからね。泊まっていくなら全然泊まってくれていいから! 蓮也は変なことすんなよ」
「うるせえなバイト遅れるぞ」
「ったく口が悪い弟だなほんと。可愛い妹とかならよかったのに」
ブツブツいいながらお姉さんは鞄を手にする。そして私にだけ爽やかな顔で手を振ると、そのまま家を出て行ってしまったのだ。
私はといえば、二人の仲のよさにまだ笑っていた。私とお姉ちゃんとはまた違ったタイプの姉弟。でも、姉には敵わないという立場はすごく理解できる。
蓮也は気まずそうに言った。
「ごめんうるさくて」
「全然。相変わらず面白いお姉さんだよね。私好きだな、もっと話したかった」
「姉ちゃんも言ってたけど泊まってけよ。夜ゆっくり飯でも食って話せばいいじゃん」
サラリと誘ってくれたことに感謝し小さく頷いた。目の前に出されたお茶をそっと一口啜る。少し苦い緑茶が私の心を少しだけ落ち着けてくれた。
隣に座った蓮也も、自分でいれたと見られるグラスのお茶を飲んでいた。私の前に置かれた焼き菓子を手に取り、無言でもぐもぐと食べ始める。彼のいつもと変わらない態度に、私はなんだ嬉しく感じて微笑んだ。
そんなこちらの様子に気づき、蓮也が言う。
「なに?」
「ううん。普通に接してくれて蓮也は優しいなあって」
「別に。中学からの長い付き合いじゃん」
甘そうなお菓子を食べながらやや早口で蓮也が言った。私は両手でお茶を包み、少しだけ俯く。
一度は私のことを好きだと言ってくれた蓮也に、こんな話をしていいのかという疑問はある。ここまで着いてきてしまいながら、自分の行動が軽薄なんじゃないかと思うが、それでも今は他に頼れる人がいなかった。
私たちの奇妙な結婚のきっかけを知る知人は蓮也しかいない。結局他の友達にも説明できていなかったんだ。
この約三ヶ月、ただ必死で。毎日が必死で必死で、何も気が回らなかった。結婚したという事実を友達に説明することさえできなかった。
「……離婚した」
私がポツリと呟くと、お菓子を食べていた蓮也の手がピタリと止まった。彼はゆっくりこちらを見る。苦笑して続ける。