片想い婚
蓮也はさらに慌てて言う。
「ごめん、変な意味じゃない! こう、ビシッとして持ってる物とかも良いものが多かったから」
「うんわかるよ。私とお姉ちゃんは似てなかったもん」
「あーまあ、似てない、かな」
言いにくそうに蓮也はモゴモゴと答えた。私は小さく笑って答えた。
「自覚してるからいいの。お姉ちゃんは美人でしっかり者だったから。正反対だって、子供の頃から思ってた」
「美人? ではあるかもだけど、俺はキツそうで無理だよ。あ、ごめん悪口じゃないんだけど」
「変わってるね。私の周りの人はみんなお姉ちゃんに憧れてたよ。蒼一さんだって」
言いかけて止まる。蒼一さんの話題なんて出すつもりはこれっぽっちもなかったのに、つい名前を出してしまった。
お姉ちゃんと一緒にいる時の蒼一さんは子供みたいだった。私には結局一度もそんな顔を見せてくれなかったけど。子供の頃からあれだけ長い時間一緒にいたんだ、きっとすごく好きだったはず。
……その代わりに、なりたかった。
涙で目のまえが滲んでくる。そんな様子に気づいた蓮也が隣で戸惑っているのを感じた。必死に鼻を啜りながら答えた。
「ごめん、やっぱりお姉ちゃんにはなれなかったなって思っただけなの、私あんな器用じゃないししっかりしてないから」
「そんなこと」
「もう少し上手くやりたかったな。頑張ったつもりだったけど。もうちょっとお姉ちゃんみたいに」
「咲良」
低い声がして隣を見る。その動きで、目から涙が落ちてしまった。蓮也は真面目な表情でじっと私を見ていた。
「咲良は咲良じゃん。俺はそんな咲良がよくて好きだって言ったんだけど」
「……あ」
「だからそんなに自分を責めなくていいじゃん」
恥ずかしさと、どこか嬉しさもあって俯いた。顔が熱くなるのを自覚する。
結局蒼一さんには受け入れてもらえなかった自分が、誰かに好きだと言ってもらえるのは嬉しいことだった。自分はこのままでも価値があるんだ、って。そう思えるだけで少しだけ心が救われた。
蓮也も言って恥ずかしくなったのか顔を背ける。
「いや、ごめん。別にあの告白についてなんか言ってほしいわけじゃないから」
「うん……」
「でも覚えててほしい。俺は正直咲良が離婚できたって聞いて喜んでるよ」
しっかりした口調でそう断言され、びくっと自分の体が反応した。忘れていたわけじゃないけど、蓮也が私を好きと言ってくれているのはなんだか信じられないと思う。
彼は仲のいい友達だ。居心地が良くて、一緒にいるとつい気が緩む。だからこそ、いっぱいいっぱいの私にそんな優しい言葉は反則だ。
全部吐き出したくなる。蓮也に言ってもどうしようもないのに、聞いてほしいと思ってしまう。
蓮也が持っていたグラスを置く。私は少しも動かないまま自分の膝を見つめていた。
「咲良?」
蓮也がこちらを覗き込んでくる。とうとう止まらなくなりポロポロ溢れでた涙が自分の拳を濡らしていく。涙ってこんなに出るんだ、なんて感心するほどだった。
「私、蒼一さんと結婚したかったんだ」
ほとんど無意識に言葉をこぼしてしまい、慌てて口を閉じたが遅かった。蓮也は聞いて驚きで固まっている。気まずくなって視線を泳がせた。
言うつもりなかったのに。つい言ってしまった。最後まで私一人の心に秘めておきたかったのに。
「ごめん、変な意味じゃない! こう、ビシッとして持ってる物とかも良いものが多かったから」
「うんわかるよ。私とお姉ちゃんは似てなかったもん」
「あーまあ、似てない、かな」
言いにくそうに蓮也はモゴモゴと答えた。私は小さく笑って答えた。
「自覚してるからいいの。お姉ちゃんは美人でしっかり者だったから。正反対だって、子供の頃から思ってた」
「美人? ではあるかもだけど、俺はキツそうで無理だよ。あ、ごめん悪口じゃないんだけど」
「変わってるね。私の周りの人はみんなお姉ちゃんに憧れてたよ。蒼一さんだって」
言いかけて止まる。蒼一さんの話題なんて出すつもりはこれっぽっちもなかったのに、つい名前を出してしまった。
お姉ちゃんと一緒にいる時の蒼一さんは子供みたいだった。私には結局一度もそんな顔を見せてくれなかったけど。子供の頃からあれだけ長い時間一緒にいたんだ、きっとすごく好きだったはず。
……その代わりに、なりたかった。
涙で目のまえが滲んでくる。そんな様子に気づいた蓮也が隣で戸惑っているのを感じた。必死に鼻を啜りながら答えた。
「ごめん、やっぱりお姉ちゃんにはなれなかったなって思っただけなの、私あんな器用じゃないししっかりしてないから」
「そんなこと」
「もう少し上手くやりたかったな。頑張ったつもりだったけど。もうちょっとお姉ちゃんみたいに」
「咲良」
低い声がして隣を見る。その動きで、目から涙が落ちてしまった。蓮也は真面目な表情でじっと私を見ていた。
「咲良は咲良じゃん。俺はそんな咲良がよくて好きだって言ったんだけど」
「……あ」
「だからそんなに自分を責めなくていいじゃん」
恥ずかしさと、どこか嬉しさもあって俯いた。顔が熱くなるのを自覚する。
結局蒼一さんには受け入れてもらえなかった自分が、誰かに好きだと言ってもらえるのは嬉しいことだった。自分はこのままでも価値があるんだ、って。そう思えるだけで少しだけ心が救われた。
蓮也も言って恥ずかしくなったのか顔を背ける。
「いや、ごめん。別にあの告白についてなんか言ってほしいわけじゃないから」
「うん……」
「でも覚えててほしい。俺は正直咲良が離婚できたって聞いて喜んでるよ」
しっかりした口調でそう断言され、びくっと自分の体が反応した。忘れていたわけじゃないけど、蓮也が私を好きと言ってくれているのはなんだか信じられないと思う。
彼は仲のいい友達だ。居心地が良くて、一緒にいるとつい気が緩む。だからこそ、いっぱいいっぱいの私にそんな優しい言葉は反則だ。
全部吐き出したくなる。蓮也に言ってもどうしようもないのに、聞いてほしいと思ってしまう。
蓮也が持っていたグラスを置く。私は少しも動かないまま自分の膝を見つめていた。
「咲良?」
蓮也がこちらを覗き込んでくる。とうとう止まらなくなりポロポロ溢れでた涙が自分の拳を濡らしていく。涙ってこんなに出るんだ、なんて感心するほどだった。
「私、蒼一さんと結婚したかったんだ」
ほとんど無意識に言葉をこぼしてしまい、慌てて口を閉じたが遅かった。蓮也は聞いて驚きで固まっている。気まずくなって視線を泳がせた。
言うつもりなかったのに。つい言ってしまった。最後まで私一人の心に秘めておきたかったのに。