片想い婚
「……え、それ、どういう」

「…………」

「咲良が元々、あの人を好きだったってこと?」

 信じられない、とばかりに小さく首を振った。その反応に少し笑ってしまう。そうだよね、驚くよね。

 頬に流れた涙を乱暴に拭き、半ばやけくそ気味に言った。

「馬鹿だよね、お姉ちゃんの婚約者だって知ってたのに初恋だったんだよ。七歳も年上だし、相手にされないことなんて考えなくてもわかるのに」

「……そ、んな」

「それでも子供の頃からずっと好きだったから……」

 私は両手で顔を覆って泣いた。

 そう、ずっと彼が好きだった。叶わないと思っていた片想いが叶ったんだと結婚式の日は喜んだ。

 でも違うんだね。形だけの結婚じゃどうにもならない。心と心が通じ合えるわけじゃないんだ。私は甘すぎた。

 自分の嗚咽の音が部屋に響く。蓮也にこんなことを言うなんてダメだとわかってるのに、もう止まれなかった。誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。

 泣き続ける私に、蓮也は黙っていた。ただ涙をこぼす私をみている。隣に蓮也が座ってる空間が心地良かった。

 蓮也を好きだったらよかったのにな、と思った。

 一緒にいて楽で、私を好きでいてくれて、いいやつだし気も合う。きっと付き合ったら上手くやっていけるだろうなと想像もつく。

 それでも———私が選んだのは、あの人だった。







 昨晩ほとんど眠れていなかった私は、ソファの上でいつのまにか眠ってしまっていた。

 目が覚めた時はもう外は暗くなっていて、慌てて謝る私に蓮也は笑ってくれた。

 ここ最近、ぐっすり眠れていなかった気がする。体の疲労感が取れてスッキリした気がした。頭も冴えてきた気がする。

 お姉さんのバイトはもう少しで終わるので、帰ったらみんなでピザでも取って食べようと提案してくれた。私は喜んで頷き、とりあえず二人で並びお姉さんの帰りを待った。

 なんとなくテレビを眺めながら、驚くぐらい居心地のいいこの場所を不思議に思っていた。くだらないバラエティの音声が流れていて、蓮也と笑いながらそれを見ている。あまり広くないリビングは今日初めてきたとは思えない。

 蒼一さんと暮らしている時はいつでも緊張してた。隣に座ってテレビを見ることすら上手くできなかった。どこか肩の力が入ってて、気が抜けなかった。

 蓮也はまるでずっと前から一緒に暮らしてたみたいに楽だ。自宅ってこういうところだったっけ。そう思いながら、心の中でその答えをわかっていた。
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