片想い婚
(蒼一さん……もう家に帰ってお母様と話したかな)
ぼんやりとそう考える。そういえば、実家に連絡したままスマホも見てないや。置きっぱなしだった鞄からそれを取り出してみると、いくつか着信やメッセージがあって狼狽えた。お母さんと、それから蒼一さんからも来ていたからだ。
聞いたんだな、離婚のこと。
多分何も相談なしでこうなったことに戸惑ってるだろう。彼は優しいから、ちゃんと私から話を聞こうと思ってくれたんだ。
じっとスマホの画面を見つめていると、横にいた蓮也がちらりとこちらをみた。
「電話鳴ってた。起こすのもと思って何もしなかったけど」
「うん……」
「蒼一って人?」
「うん、離婚のこと聞いて話そうとしてくれたのかも」
私はそのままスマホをしまった。すると蓮也が言った。
「話さなくていいの。好きだったこと」
驚きで隣をみた。彼はテレビの方を向いていたが、その目がお笑い番組なんて見ていないことは分かっていた。私は小さく首を振って言う。
「言えるわけないよ。困らせちゃうだけだよ。蒼一さんは優しいから、きっと」
「困らせて何が悪いの?」
蓮也がこちらを振り返る。彼はどこか切なそうにしていた。それでも私から目を逸らすことなくじっとこちらを見ている。
「困らせればいいじゃん。人間誰かを困らせずに生きていくなんて無理だよ。咲良は人に気を遣いすぎだと思う」
「で、でも。お姉ちゃんがいなくなって喜んでたなんて、そんな性格悪いところ見せたくない」
「俺だってさっき言ったはずだよ、咲良が離婚して喜んでるって。そんな俺を見て引いた?」
「え、別にそれは」
「そんなもんなんだって人間。それに、あの人とはもう会わないつもりなんだろ? じゃあ最後くらい幻滅されたっていいじゃん。
何も言わずに出てきたなんて、あとで後悔すると思う」
蓮也の低い声が心に落ちた。
確かにそう。何も相談なしに蒼一さんと別れた。昨晩あんなことがあって、彼と顔を合わせづらいし今更全てを話すのも辛い。
でも……黙ってるままなんて、やっぱりよくないのかな。このむしゃくしゃした気持ちも、悲しい涙も、全部曝け出せたらスッキリするんだろうか。
私は黙り込んで俯いた。今まで一度も思ったことがなかった、蒼一さんに告白をしようなんて。だって、お姉ちゃんの婚約者を好きになるということがどれほど愚かで馬鹿なことか分かっていたから。
けどそれは言い訳なのかもしれない。ただ彼に拒絶されるのが怖かっただけ。もう拒絶されてしまった今、怖いものはないのかもしれない。
最後にもう一度だけ、あの顔を見てちゃんと別れが言えたなら。
「私……」
そうか細い声で言いかけた時だった。
ぼんやりとそう考える。そういえば、実家に連絡したままスマホも見てないや。置きっぱなしだった鞄からそれを取り出してみると、いくつか着信やメッセージがあって狼狽えた。お母さんと、それから蒼一さんからも来ていたからだ。
聞いたんだな、離婚のこと。
多分何も相談なしでこうなったことに戸惑ってるだろう。彼は優しいから、ちゃんと私から話を聞こうと思ってくれたんだ。
じっとスマホの画面を見つめていると、横にいた蓮也がちらりとこちらをみた。
「電話鳴ってた。起こすのもと思って何もしなかったけど」
「うん……」
「蒼一って人?」
「うん、離婚のこと聞いて話そうとしてくれたのかも」
私はそのままスマホをしまった。すると蓮也が言った。
「話さなくていいの。好きだったこと」
驚きで隣をみた。彼はテレビの方を向いていたが、その目がお笑い番組なんて見ていないことは分かっていた。私は小さく首を振って言う。
「言えるわけないよ。困らせちゃうだけだよ。蒼一さんは優しいから、きっと」
「困らせて何が悪いの?」
蓮也がこちらを振り返る。彼はどこか切なそうにしていた。それでも私から目を逸らすことなくじっとこちらを見ている。
「困らせればいいじゃん。人間誰かを困らせずに生きていくなんて無理だよ。咲良は人に気を遣いすぎだと思う」
「で、でも。お姉ちゃんがいなくなって喜んでたなんて、そんな性格悪いところ見せたくない」
「俺だってさっき言ったはずだよ、咲良が離婚して喜んでるって。そんな俺を見て引いた?」
「え、別にそれは」
「そんなもんなんだって人間。それに、あの人とはもう会わないつもりなんだろ? じゃあ最後くらい幻滅されたっていいじゃん。
何も言わずに出てきたなんて、あとで後悔すると思う」
蓮也の低い声が心に落ちた。
確かにそう。何も相談なしに蒼一さんと別れた。昨晩あんなことがあって、彼と顔を合わせづらいし今更全てを話すのも辛い。
でも……黙ってるままなんて、やっぱりよくないのかな。このむしゃくしゃした気持ちも、悲しい涙も、全部曝け出せたらスッキリするんだろうか。
私は黙り込んで俯いた。今まで一度も思ったことがなかった、蒼一さんに告白をしようなんて。だって、お姉ちゃんの婚約者を好きになるということがどれほど愚かで馬鹿なことか分かっていたから。
けどそれは言い訳なのかもしれない。ただ彼に拒絶されるのが怖かっただけ。もう拒絶されてしまった今、怖いものはないのかもしれない。
最後にもう一度だけ、あの顔を見てちゃんと別れが言えたなら。
「私……」
そうか細い声で言いかけた時だった。