片想い婚
部屋にインターホンが鳴る音が響いた。
お姉さんかな、と思いつつ、自分の家なら普通鍵で入ってくるだろうと思い直す。宅配便とかだろうか。
蓮也が立ち上がって画像を確認しに行く。私はそのまま一人考え事を続ける。
「咲良」
「え?」
「待ってて」
蓮也がやけに厳しい顔でそう言った。その気迫に押されてとりあえず頷く。一体どうしたんだろう、変な勧誘とかかな?
私を置いて、蓮也は玄関の方へ向かった。何気なくその後ろ姿を見送った後、私は言われた通りおとなしく座って待っていた。テレビから流れる笑い声がやけに響いている。あまり気分じゃなかったが、お笑いを眺めて過ごす。
遠くで玄関が開かれる音がした。その後、何か話している声が僅かに流れてくる。でも内容まではわからないし、相手がどんな人なのかもいまいちよく聞こえない。テレビの雑音がちょうど邪魔をしていた。もしかしてうるさいかな、そう心配になった私は、置いてあったリモコンで音量を下げた。
すると聞こえてきた声が、なんだかひっ迫しているようなものであることに気がついた。言い争い、とまではいかないけど、なんだか不穏な……?
私は静かに立ち上がって恐る恐る廊下に近づいてみる。閉められた扉をそうっと開き隙間から覗いてみた。が、その瞬間玄関に立っている人を見て頭が真っ白になる。そして相手も、私の存在に気づいたのだ。
「咲良ちゃん!」
慌てて顔を引っ込め、背を向けてその場にしゃがみ込んだ。バクバクと心臓がおおきく鳴り響く。
嘘、どうして蒼一さんが? なんでここが。ううん、それより何をしに来たんだろう。
もう一度顔を見て話したいと思っていたくせに、予想外のことにただ驚きで呆然とする。そんな私の背中に、蒼一さんの声がぶつけられた。
「咲良ちゃん、聞いてほしい。話したいことがある、出てきて!」
聞いたことのない蒼一さんの声だった。切羽詰まった苦しそうな声。そんな声を聞いて私は狼狽える。ただパニックになった頭で声を張り上げた。
「す、すみません勝手なことして……! でもその、もうあとの手続きは蒼一さんにお任せしたくって、私はも」
「離婚なんてしない!」
背後からそんな言葉が聞こえてきて停止した。膝を抱えたまま瞬きも忘れて唖然とする。
離婚しない、って、どうして? だって、蒼一さんが断る理由なんて何もないはずじゃない。なぜここでそんなことを言うの?
頭がぐるぐると回りながら、私は出てきた言葉そのままを声に出した。
「ど、どうしてですか。だって蒼一さんは新田さんがいるし、私となんて一緒にいても天海家のためにもならないから、だから」
あなたが好きだけど諦めたのに。
しどろもどろでそう言った時、蓮也の慌てた声が聞こえた。しかしそれとほぼ同時に、自分の後ろにあった扉が勢いよく開いたのに気がついた。ふわりとした風が吹いて私の髪を揺らす。反射的に後ろを見上げてみれば、好きでたまらない人の顔がそこにはあった。
「……蒼一、さん」
さきほど一瞬みただけでは気が付かなかった。彼は普段とまるで様子が違っていた。
いつもビシッと着こなしているワイシャツはよれてシワができている。サラリとした髪は風に煽られたのか乱れており、額には汗を流して私を見下ろしている。
固まったまま彼を見つめた。その顔を見ただけで、抑えていた気持ちが溢れてしまいそうになりぐっと堪える。
お姉さんかな、と思いつつ、自分の家なら普通鍵で入ってくるだろうと思い直す。宅配便とかだろうか。
蓮也が立ち上がって画像を確認しに行く。私はそのまま一人考え事を続ける。
「咲良」
「え?」
「待ってて」
蓮也がやけに厳しい顔でそう言った。その気迫に押されてとりあえず頷く。一体どうしたんだろう、変な勧誘とかかな?
私を置いて、蓮也は玄関の方へ向かった。何気なくその後ろ姿を見送った後、私は言われた通りおとなしく座って待っていた。テレビから流れる笑い声がやけに響いている。あまり気分じゃなかったが、お笑いを眺めて過ごす。
遠くで玄関が開かれる音がした。その後、何か話している声が僅かに流れてくる。でも内容まではわからないし、相手がどんな人なのかもいまいちよく聞こえない。テレビの雑音がちょうど邪魔をしていた。もしかしてうるさいかな、そう心配になった私は、置いてあったリモコンで音量を下げた。
すると聞こえてきた声が、なんだかひっ迫しているようなものであることに気がついた。言い争い、とまではいかないけど、なんだか不穏な……?
私は静かに立ち上がって恐る恐る廊下に近づいてみる。閉められた扉をそうっと開き隙間から覗いてみた。が、その瞬間玄関に立っている人を見て頭が真っ白になる。そして相手も、私の存在に気づいたのだ。
「咲良ちゃん!」
慌てて顔を引っ込め、背を向けてその場にしゃがみ込んだ。バクバクと心臓がおおきく鳴り響く。
嘘、どうして蒼一さんが? なんでここが。ううん、それより何をしに来たんだろう。
もう一度顔を見て話したいと思っていたくせに、予想外のことにただ驚きで呆然とする。そんな私の背中に、蒼一さんの声がぶつけられた。
「咲良ちゃん、聞いてほしい。話したいことがある、出てきて!」
聞いたことのない蒼一さんの声だった。切羽詰まった苦しそうな声。そんな声を聞いて私は狼狽える。ただパニックになった頭で声を張り上げた。
「す、すみません勝手なことして……! でもその、もうあとの手続きは蒼一さんにお任せしたくって、私はも」
「離婚なんてしない!」
背後からそんな言葉が聞こえてきて停止した。膝を抱えたまま瞬きも忘れて唖然とする。
離婚しない、って、どうして? だって、蒼一さんが断る理由なんて何もないはずじゃない。なぜここでそんなことを言うの?
頭がぐるぐると回りながら、私は出てきた言葉そのままを声に出した。
「ど、どうしてですか。だって蒼一さんは新田さんがいるし、私となんて一緒にいても天海家のためにもならないから、だから」
あなたが好きだけど諦めたのに。
しどろもどろでそう言った時、蓮也の慌てた声が聞こえた。しかしそれとほぼ同時に、自分の後ろにあった扉が勢いよく開いたのに気がついた。ふわりとした風が吹いて私の髪を揺らす。反射的に後ろを見上げてみれば、好きでたまらない人の顔がそこにはあった。
「……蒼一、さん」
さきほど一瞬みただけでは気が付かなかった。彼は普段とまるで様子が違っていた。
いつもビシッと着こなしているワイシャツはよれてシワができている。サラリとした髪は風に煽られたのか乱れており、額には汗を流して私を見下ろしている。
固まったまま彼を見つめた。その顔を見ただけで、抑えていた気持ちが溢れてしまいそうになりぐっと堪える。