片想い婚
突如、彼は私を両手に抱きしめた。息が止まりそうなほど強い力だった。ぽかん、としてしまう。
背中に回されたその腕は熱い。いつだったか家で彼に抱擁されたことがあった。立ちくらみだ、と笑っていたけれど、では一体これは何?
彼の背中に手を回す勇気はなかった。ただ棒立ちになりながら、そのぬくもりと香りに包まれてされるがままでいる。
ただ、もう会うこともないかもしれないと思っていた好きな人が目の前にいて、私を抱きしめてくれている。それだけで、自分の涙腺が緩むには十分なことだった。
もしかして、今なのかな。言うべきタイミングは。よくわからない状態だけどこれ以上のきっかけなんかないかもしれない。
私はなんとか声を出そうと思ったとき、それより早く蒼一さんの声が漏れた。
「何でよりにもよってここにいたの……」
「え」
「ううん、違うね。僕が全部悪かったんだ、咲良ちゃんが出て行ったのは僕のせいなんだから、こんなことを言う資格ないんだけど」
そして耳元で、蒼一さんが苦しそうに呟いた。
「ずっと好きだった」
聞き間違いかと疑った。夜風に紛れて落ちた何か適当な音を、私が脳内で求めていた言葉に置き換えたのかと。
だって、そんな言葉が耳に届くはずがない。ほしくてたまらなかった言葉を、蒼一さんが言うわけがないんだから。
「…………え」
それでも、信じられない私に再び彼は言葉をかけた。さっきより少し大きな声ではっきりと、呟く。
「咲良ちゃんがずっと好きだった」
背中に回されたその腕は熱い。いつだったか家で彼に抱擁されたことがあった。立ちくらみだ、と笑っていたけれど、では一体これは何?
彼の背中に手を回す勇気はなかった。ただ棒立ちになりながら、そのぬくもりと香りに包まれてされるがままでいる。
ただ、もう会うこともないかもしれないと思っていた好きな人が目の前にいて、私を抱きしめてくれている。それだけで、自分の涙腺が緩むには十分なことだった。
もしかして、今なのかな。言うべきタイミングは。よくわからない状態だけどこれ以上のきっかけなんかないかもしれない。
私はなんとか声を出そうと思ったとき、それより早く蒼一さんの声が漏れた。
「何でよりにもよってここにいたの……」
「え」
「ううん、違うね。僕が全部悪かったんだ、咲良ちゃんが出て行ったのは僕のせいなんだから、こんなことを言う資格ないんだけど」
そして耳元で、蒼一さんが苦しそうに呟いた。
「ずっと好きだった」
聞き間違いかと疑った。夜風に紛れて落ちた何か適当な音を、私が脳内で求めていた言葉に置き換えたのかと。
だって、そんな言葉が耳に届くはずがない。ほしくてたまらなかった言葉を、蒼一さんが言うわけがないんだから。
「…………え」
それでも、信じられない私に再び彼は言葉をかけた。さっきより少し大きな声ではっきりと、呟く。
「咲良ちゃんがずっと好きだった」