片想い婚
蒼一の答え
車を慣れた駐車場へ停めた。エンジンを切りシートベルトを外す。
隣を見ると、咲良が心配そうに私のことをみていた。そんな表情が、どこか子供の頃の彼女を思い出させて私は微笑んだ。
二人で車から降りて咲良の隣へ移動する。すぐに咲良の小さな手を握った。それだけのことで、彼女がびくりと緊張で反応したのがわかる。かくいう私も、ただ手を繋いでいるだけなのに心臓がいつもより速く鼓動を打っていた。
二人で白い家を見上げた。咲良に声をかける。
「大丈夫?」
彼女は私の方をみる。そしてあの柔らかな笑顔で笑って見せてくれた。
「はい」
「ごめんね、行こうか」
二人で足を踏み出して実家の門をくぐる。そして鍵を開けて玄関の扉を開いた。今日も来た自分の実家は、ずっと育ってきた場所だというのに酷く嫌なところに見えた。
そのままリビングへ行こうと移動すると、物音を聞きつけたのかこちらが開けるより先に扉が開いた。
「天海さん!」
新田さんだった。もう外も暗くなっているというのにまだ残っていたらしい。私の顔を見て安心したような表情になったが、隣にいる咲良をみてはっとした顔つきになった。
その後ろから、母が駆け寄ってくる。
「蒼一! あなたどこに行ってたの? 何度も連絡したのよ!」
そう言った母も、咲良の姿を見つけて表情を固くさせた。咲良は落ち着かないように俯く。私は二人から咲良を隠すようにやや前にでた。
「あ、あら咲良さん……こんばんは」
「こ、こんばんは」
咲良は律儀に挨拶を返す。母はソワソワしながらも奥にあるソファへと移動した。新田さんはその場から動かず、何かを言いたそうにしている。そんな彼女を無視して、私と咲良は母の元へと近づいた。
座ることなく、二人で母の前に立った。咲良の手をしっかり握ったまま。母もその様子に気がついたようで、繋がっている手をじっと見た。
「なんです、二人並んで。一体今まで何を」
「僕たち離婚はしません」
単刀直入にそう言った。母がゆっくり顔をあげる。
複雑そうな顔だった。失笑してしまいそうだ。これほどハッキリ言われて、まだ納得いかない顔をするなんて。
わかっていた。これはもうこの人の意地なのだ。昔からそう、頑固で自分の非を認めたがらない。頭がよく決断力もある女性なのは尊敬していたが、今はもうそんな気持ちはない。ただ失望するだけだ。
母は首を傾げて言う。
「咲良さんが朝離婚届を持ってきてくれたんだけど」
「母さんが書かせたんでしょう? あの紙はもうないし無効です。何か問題がありますか? 僕たちは話し合ってちゃんと進むことにした。これ以上の答えはない」
「今更ちゃんと進めるっていうの?」
「しっかり話した。お互いの気持ちはもう理解しあったんだ、母さんたちにとやかく言われる覚えはない」
睨みながらそう言うも、それでもあの人は頷かなかった。笑って『そうなの、じゃあこれから頑張ってね』なんて言えたらいいのに。