片想い婚
「天海さん!」

 途中、新田茉莉子がこちらに声をかけた。顔を真っ赤にしている。私は咲良にピタリと肩を寄せ、一度足を止めた。

 口角を上げて笑う。

「新田さん。僕の誕生日の日、電話番ありがとう」

 嫌味を込めて告げた。びくんと彼女の体が跳ねる。

 あえてそれ以上は何も言わなかった。この結末なら、言わなくても言いたいことはきっとわかってるだろうな。

「蒼一! ちょっと待って!」

 母が私の肩を掴む。それを振り払って、リビングのドアノブに手を伸ばしたときだ。

 私たちが開くより前に扉が動いた。そこから出てきたのは、よく知っている顔だった。相手は驚いたように私を見、目を丸くして言う。

「蒼一、来てたのか。何度も電話したんだぞ、休みだったろ今日」

 父だった。スーツを着ているのを見るに仕事帰りだ。彼は私を見た後、隣の咲良にも気がついた。そして笑顔で言う。

「咲良さんも来てたのか! こんばんは、お久しぶりだね」

「ご、ご無沙汰しております」

「……ん? 新田さん? なんだこれは。なんかのパーティーでもしてたのか?」

 不思議そうに部屋を見渡す。そんな父に、母は慌てて縋りついた。味方を捕まえた顔だった。

「あなた!」

「なんだ、そんな怖い顔して」

「蒼一に何か言ってやってください、この子会社を辞めるだなんて」

「はあ?」

 ぽかんとしている父に向かって、今度は私が話しかけた。怒りの声を抑えながらぶつける。

「父さんも知ってたの? 僕と咲良のこと」

「え?」

「母さんが、僕と咲良を離婚させて新田さんと結婚させようとしてたこと。父さんも知ってたんですか?」

 睨みつけながらそう父にたずねたが、彼はあんぐりと口を開けていた。その表情を見てピンとくる、どうやら父は無関係のようだ。母が一人突っ走っていたのだろう。

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