片想い婚
「不満じゃないんだけど、一個聞いておこうと思ってた。なんで蓮也くんの家にいたの?」

「え」

 蒼一さんはどこか困ったような顔をしていた。私は慌てて説明する。

「朝たまたま会ったんです……! 私の様子を見て心配してくれて、家に来ていいよって。実家に帰って色々聞かれるのは辛いなと思ってたから、彼の言葉に甘えたんです」

「ふうん……」

「あ! あの家は蓮也の一人暮らしじゃないですよ、朝はお姉さんもいて。夜にはバイトから帰ってくる予定だったんです」

 私の説明にも、どこか彼は不満そうな顔をしていた。怒っている、とはまた違う顔だ。悲しげで拗ねたような顔で、そんな蒼一さんの顔は初めて見る気がした。

「何してたの?」

「お茶して、あとは眠くて私は寝ちゃってました」

「……ふうん……」

「…………あの、もしかして、妬いてくれてますか?」

 恐る恐る、聞いてみた。そうであってほしいという私の願望でもある。だって、蒼一さんのこんなところ見たことがないから。

 すると彼は即答した。

「めちゃくちゃに妬いてる」

「…………」

 唖然として彼を見る。蒼一さんはふうと一つ息を吐くと、頭を掻いて言った。

「ま、僕のせいで出ていく羽目になったんだから、妬く立場じゃないことは承知の上」

「蒼一さんも妬いたりするんですか?」

「あたりまえ。前に二人で出かけるって言ってた時も本当は止めたかった。独占欲がなきゃ、結婚式であんなゲスな計画立てたりしない」

「あは、ゲスって」

 蒼一さんらしくない言葉につい笑ってしまう。ちょっとらしくないけど、これも蒼一さんの顔の一つなんだろうか。そういえばイライラしたときくそ、って言ったりして。

 笑っている私の頬に突然彼が手をのばした。それだけでどきんと胸が高鳴り、笑いなんて一気に引っ込んでしまう。頬が火傷したみたいに熱い。

「ごめんね、嫉妬深くて」

 間近で彼が言った。私は体をこわばらせたまま小さく首を振る。

「い、いえ、むしろ大歓迎ですが」

「はは、大歓迎?」

「なんで蒼一さんがそんなに私を想ってくれてるんだろうって疑問ではあります、お姉ちゃんみたいに美人でもないし不器用だ」

 私が言いかけている最中に、その口を塞ぐように彼は唇を押し当てた。突然のことに驚く。でも未だ慣れないその行為に応えたくて、ただ必死に受け入た。それでも苦しい、息ができないほどに。



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