片想い婚
「大丈夫?」
ふいに蒼一さんが顔を上げて私を気遣いたずねた。声も出せずに頷く。またしてもいつのまにか流れていた涙を、蒼一さんが指先で拭く。
「なんか、体ガチガチ」
「緊張は、してます。だって今まで手をつなぐぐらいで必死だったんです。ぎゅっとするのでさえ死にそう。でも、これは嬉し泣きです」
「そっか、嬉し泣きか」
「だから、大丈夫です」
小さく蒼一さんが笑う。私の髪を優しく撫でた。
子供の頃もよく頭を撫でてくれたけど、その時とはまるで違う感覚。私はぼんやりと蒼一さんの顔を見上げた。バチリと目が合うと、彼はおもしろそうに言う。
「髪。触るの好きなの?」
「え?」
「さっき何度も僕の触ってたから」
「好きっていうか……触ってみたいな、って思ってたから」
そういうと、彼は突然ふざけたように私の肩に頭をぶつけた。髪の毛が触れてくすぐったくなる。私は笑った。
「どうぞ、お好きなだけ」
「あは、どうぞって言われるといらないです」
「いらないって。急に冷たいじゃん」
蒼一さんも笑う。二人の笑い声が重なり少し経つと、彼は私の手をそっと取った。開いた私の掌を見て微笑む。
「力抜けた?」
「え?」
「緊張で拳握り締めてたでしょ。手のひらに爪の跡ついてる」
「あ……」
気づかなかった。自分で確認してみると、確かによほど強く拳を握っていたらしくくっきり爪の跡がついている。
蒼一さんはもう拳と作らせまいというように指を絡めて手を握った。私もそれを握り返す。
「力抜いて」
蒼一さんがそう微笑んで囁いた。言われたばかりだというのに強張ってしまった自分を落ち着けるために、ひとつだけ息を吐く。
手のひらに伝わる体温が心地いい。ずっとこうしていたいと思う。
蒼一さんが私の額にひとつキスをした。ぼんやりと見上げる彼の顔は、情けないことにまたしても涙で滲んで見えなかったのだ。