片想い婚
「私出ます!」

 それだけ言ってモニターを見る。そこで目を丸くした。立っていたのは蓮也だったからだ。

 あれ、何でここがわかったんだろう。そう疑問を感じると同時に、昨夜は家にお邪魔してお世話になったくせにお礼も言っていなかったのを思い出す。

 私は急いで外へと出た。

 玄関を開けると、蓮也がそこに立っていた。彼は手に私の荷物を持っていて、わざわざ届けにきてくれたのだと気づく。私を見ると、彼は眉を下げて笑った。

「おはよ」

「蓮也! お、おはよ。荷物わざわざ届けにきてくれたの?」

 慌てて彼の手から荷物をもらう。蓮也は一つ頷いた。

「ごめんね、私一日お邪魔してたのにお礼も言えなくって。お姉さんにも」

「まあ、気にすんな。それどころじゃなかったっぽいのは感じてる」

「よろしく伝えといて、今度お礼を送るから」

「そんなんいいって。
 あー、咲良の実家に行ったんだよ、荷物届けようと思って。預けようとしたんだけど、でも直接会いたいなって思って、咲良の親から住所聞いてきたんだ」

 なるほど、それでここが分かったのか。そういえば、離婚回避したことまだお母さんたちにも言ってなかった。今頃心配してるだろう、すぐに連絡しなきゃ。

 私は深々頭を下げる。

「本当にありがとう、ごめんね。助かった」

「離婚、しないんだろ?」

 蓮也がそう言ったので顔を上げる。彼はどこか寂しそうな、それでいて嬉しそうな複雑な顔をしていた。私は少し答えに詰まりながらも、こくんと頷いた。

「うん。するのはやめたの」

「だと思った」

 蓮也は小さく笑う。不思議に思い見てみると、蓮也は小さくため息をついた。

「詳しいことは知らないけどさ。
 あの人、いつもビシッとしてて大人な感じなのに、あんなボロボロの格好で余裕ない顔してたんだから、そりゃ俺でも勘づくよね」

 彼の言葉を聞いて思い出した。昨夜私を迎えに来てくれた蒼一さんのことを。

 確かに普段とはまるで違った蒼一さんだった。服装も髪型も乱れて、いつもなら礼儀正しいのに余裕なくあそこから立ち去った。普段とはだいぶイメージが違ったかもしれない。

「聞いた話だけど、どっかで高校の名簿でも入手したのかな。咲良と仲良い友達とか電話して話聞いたり、連絡つかない人はああやっていろんな家回って探してたらしいよ。んで俺のところにも来た、と」

 そうだったんだ……と、初めて知る事実に驚いた。確かに、行き先は誰にも告げなかったしどうして蓮也の家がわかったんだろうと思っていた。ずっと前からいろんな友達のところを探し回っていたんだ。

 蓮也は優しく微笑む。



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