片想い婚
はて、と首をかしげる。私に会いたい人?
両親には式のことは告げたけど二人でやると言ったら納得していたし、友達には教えてない。ではもしかして、蒼一さんのお父様かお母様?
不思議に思っている時、タイミングよくノックの音がした。蒼一さんが立ち上がる。私が返事をするより早く、その扉が開かれた。
そこに現れた人を見て、自分が固まる。
サラリと伸びたロングヘアに、はっきりした目鼻立ち。見覚えるのある姿に、私は声をひっくり返らせた。
「お、お姉ちゃん!」
慌てて立ち上がろうとしたのを、お姉ちゃんは笑って止めた。
「あー座っててよ。転んだりでもしたらどうするの、咲良はおっちょこちょいなんだから」
懐かしい声でそう笑いながら部屋に入ってくるそのひとを見て、ただパクパクと口を開けた。
あの結婚式の日に消えてしまってから、結局お姉ちゃんの消息は知らなかった。蒼一さんは居場所を知っていると言っていたけれど、お姉ちゃんから私に直接連絡もないのなら、勝手に蒼一さんから聞くのもどうかと思い知らないままでいたのだ。
「うそ、本当にお姉ちゃん……!?」
変わらない姿で彼女は頷いた。私の隣に立った蒼一さんが言う。
「綾乃とはもうほとんど連絡取ってないんだけど、咲良ちゃんとの式については言ったんだ、綾乃にも色々心配かけたから。
そしたらまさかの今日突然やってきて」
困ったような蒼一さんの声に、お姉ちゃんが言った。
「当たり前よ。だって私だけなのよ、咲良のドレス姿見てないの。みんなだけ見てずるいんだからもう」
不満気に言ったお姉ちゃんは、しゃがみ込んで私と視線を合わせてくれる。久々にみる姉の顔は、ひどく私の心を揺さぶった。
自分とは正反対だった姉。趣味も性格も違うけど、私たちは仲のいい姉妹だった。結婚式の日突然消えてしまって、もう会えないかと思っていた。
お姉ちゃんは目を細めて言う。
「すごく綺麗だよ咲良、やっぱり本人が選んだドレスは違うね。似合ってる」
「お姉ちゃん……」
「あの日、ごめんね。突然で、あんな形になって。もうちょっと穏便に済ます方法もあったのに。
私も実は直前まで迷ってたんだよね。蒼一は恋って感じじゃないけど一緒にいるには楽な相手だったし、スペックは問題ないし、このまま結婚しちゃおうかなーなんて。
でもやっぱり、結婚って好き合ってる人たちがするもんよね」
さっき我慢した涙がついコロンと落ちた。そんな私に気づいて、お姉ちゃんは持っていたかばんからハンカチを取り出して優しく拭き取ってくれる。
分かってた。
もし私と蒼一さんが結婚したいなんて言い出せば、周囲から反感を買う。きっと姉の婚約者を奪った妹として白い目で見られることになった。
お姉ちゃんが逃げたことで、私たちは自然と結婚する流れになり、少なくとも姉から婚約者を取った妹という目では見られなかった。
お姉ちゃんはきっと分かってて、悪役になってくれたんだ。私のためを思ってあんな形にしてくれたんだ。
「ちょっと。そんなに泣いたらメイク取れるわよ、今から本番でしょう」
焦ったようにお姉ちゃんが言う。私は泣かないように堪えながら掠れた声でいった。
両親には式のことは告げたけど二人でやると言ったら納得していたし、友達には教えてない。ではもしかして、蒼一さんのお父様かお母様?
不思議に思っている時、タイミングよくノックの音がした。蒼一さんが立ち上がる。私が返事をするより早く、その扉が開かれた。
そこに現れた人を見て、自分が固まる。
サラリと伸びたロングヘアに、はっきりした目鼻立ち。見覚えるのある姿に、私は声をひっくり返らせた。
「お、お姉ちゃん!」
慌てて立ち上がろうとしたのを、お姉ちゃんは笑って止めた。
「あー座っててよ。転んだりでもしたらどうするの、咲良はおっちょこちょいなんだから」
懐かしい声でそう笑いながら部屋に入ってくるそのひとを見て、ただパクパクと口を開けた。
あの結婚式の日に消えてしまってから、結局お姉ちゃんの消息は知らなかった。蒼一さんは居場所を知っていると言っていたけれど、お姉ちゃんから私に直接連絡もないのなら、勝手に蒼一さんから聞くのもどうかと思い知らないままでいたのだ。
「うそ、本当にお姉ちゃん……!?」
変わらない姿で彼女は頷いた。私の隣に立った蒼一さんが言う。
「綾乃とはもうほとんど連絡取ってないんだけど、咲良ちゃんとの式については言ったんだ、綾乃にも色々心配かけたから。
そしたらまさかの今日突然やってきて」
困ったような蒼一さんの声に、お姉ちゃんが言った。
「当たり前よ。だって私だけなのよ、咲良のドレス姿見てないの。みんなだけ見てずるいんだからもう」
不満気に言ったお姉ちゃんは、しゃがみ込んで私と視線を合わせてくれる。久々にみる姉の顔は、ひどく私の心を揺さぶった。
自分とは正反対だった姉。趣味も性格も違うけど、私たちは仲のいい姉妹だった。結婚式の日突然消えてしまって、もう会えないかと思っていた。
お姉ちゃんは目を細めて言う。
「すごく綺麗だよ咲良、やっぱり本人が選んだドレスは違うね。似合ってる」
「お姉ちゃん……」
「あの日、ごめんね。突然で、あんな形になって。もうちょっと穏便に済ます方法もあったのに。
私も実は直前まで迷ってたんだよね。蒼一は恋って感じじゃないけど一緒にいるには楽な相手だったし、スペックは問題ないし、このまま結婚しちゃおうかなーなんて。
でもやっぱり、結婚って好き合ってる人たちがするもんよね」
さっき我慢した涙がついコロンと落ちた。そんな私に気づいて、お姉ちゃんは持っていたかばんからハンカチを取り出して優しく拭き取ってくれる。
分かってた。
もし私と蒼一さんが結婚したいなんて言い出せば、周囲から反感を買う。きっと姉の婚約者を奪った妹として白い目で見られることになった。
お姉ちゃんが逃げたことで、私たちは自然と結婚する流れになり、少なくとも姉から婚約者を取った妹という目では見られなかった。
お姉ちゃんはきっと分かってて、悪役になってくれたんだ。私のためを思ってあんな形にしてくれたんだ。
「ちょっと。そんなに泣いたらメイク取れるわよ、今から本番でしょう」
焦ったようにお姉ちゃんが言う。私は泣かないように堪えながら掠れた声でいった。