片想い婚
そんな素顔が見れるのがこの上なく楽しかった。今まで気を張っていたのが溶けていくみたい。
「冗談冗談。さ、写真も撮ったし早速食べたいな」
「はい、じゃあ切りますね」
仕切り直して、私はケーキに包丁を入れた。断面図もそこそこよく出来ている。私はほっとしてお皿に取り分けていく。
二切れ分を無事取り分けると、フォークと共に目の前におく。蒼一さんはしっかり手を合わせていただきます、と呟いてすぐに食べた。
「すごい! 美味しい!」
「あ、よかった……今日山下さんいないし実は心配でした」
「スポンジもふわふわだし生クリームもなめらかで甘さがちょうどいいよ。イチゴと凄くよく合ってる。めちゃくちゃ美味しい!」
目を細めてそう言う蒼一さんはすぐにおかわりをしてくれた。そんな様子にほっとしながら自分も食べてみる。うん確かに、結構いい出来だ。
流石に二人で一度に完食は無理だったので残りは冷蔵庫にしまったが、それでも蒼一さんは半分近くを平らげた。結構な大きさだったのに、こんなに食べるとは予想外だ。
二人でソファに並んで座りコーヒーと紅茶を飲む。私はティーカップを持ちながら隣の彼に言った。
「たくさん食べましたね……! 夕飯入りますか?」
「ちょっと食べ過ぎたかもね。今後悔してる」
お腹をさすってそういう姿に笑った。まだ甘味の残る口腔内を紅茶で流していく。苦味が美味しい。
蒼一さんもコーヒーを啜りながら言う。
「あんなに美味しいの、前は捨てさせてごめんね」
ポツリと言ったのを聞いて首を振った。どこか悔しそうに言う横顔が目に入る。
「私が一人で勝手にやったんですから。それに今日リベンジできたのはよかったです、蒼一さんがリクエストしてくれてよかった」
心の底からそういうと、彼がこちらを見る。持っていたマグカップをテーブルに置くと、私が持っている紅茶もそっと取って置いた。不思議に思いながらそのままでいると、彼は無言でキスを落としてきた。
コーヒーの苦味。蒼一さんはコーヒーが好きなのでよく飲んでいる。私は飲めないはずのその苦手な味が、こういう時だけは愛しく感じる。なんて単純なんだろう。
未だドキドキしてしまうその行為に身を任せていると、離れた彼が両腕に私を抱きしめた。サラリと揺れる髪が頬を掠める。
熱い体温に包まれていると、蒼一さんが小声で呟く。
「あーあ」
「え?」
「また欲しくなってきた」
「あんなにケーキ食べたのにですか!?」
私が驚いて言うと、蒼一さんが体を離す。どこか楽しげに彼は言った。
「ケーキじゃなくて、こっちね」
そして、もう一度私に軽くキスをする。
私は瞬時に顔を熱くさせた。視線を逸らしてしどろもどろに言う。
「そ、それは……昨晩も召し上が、られたのでは……」
「ほんとだね。でもしょうがないよね」
けろりとして言う。その笑顔になんと答えていいかわからない私はただあたふたと慌てたが、蒼一さんが決定事項のように言った。
「今日は一日家でゆっくり、だもんね」
さっきまで子供っぽいと思っていたその表情がどこか変わったのを見逃さない。
悔しい、結局こういうところも残念ながら好きなのだ。
休みの日、冷蔵庫に眠るショートケーキ、飲み掛けのコーヒーと紅茶。
なんてことない光景が、私にとっては幸せそのもの。
<完>
「冗談冗談。さ、写真も撮ったし早速食べたいな」
「はい、じゃあ切りますね」
仕切り直して、私はケーキに包丁を入れた。断面図もそこそこよく出来ている。私はほっとしてお皿に取り分けていく。
二切れ分を無事取り分けると、フォークと共に目の前におく。蒼一さんはしっかり手を合わせていただきます、と呟いてすぐに食べた。
「すごい! 美味しい!」
「あ、よかった……今日山下さんいないし実は心配でした」
「スポンジもふわふわだし生クリームもなめらかで甘さがちょうどいいよ。イチゴと凄くよく合ってる。めちゃくちゃ美味しい!」
目を細めてそう言う蒼一さんはすぐにおかわりをしてくれた。そんな様子にほっとしながら自分も食べてみる。うん確かに、結構いい出来だ。
流石に二人で一度に完食は無理だったので残りは冷蔵庫にしまったが、それでも蒼一さんは半分近くを平らげた。結構な大きさだったのに、こんなに食べるとは予想外だ。
二人でソファに並んで座りコーヒーと紅茶を飲む。私はティーカップを持ちながら隣の彼に言った。
「たくさん食べましたね……! 夕飯入りますか?」
「ちょっと食べ過ぎたかもね。今後悔してる」
お腹をさすってそういう姿に笑った。まだ甘味の残る口腔内を紅茶で流していく。苦味が美味しい。
蒼一さんもコーヒーを啜りながら言う。
「あんなに美味しいの、前は捨てさせてごめんね」
ポツリと言ったのを聞いて首を振った。どこか悔しそうに言う横顔が目に入る。
「私が一人で勝手にやったんですから。それに今日リベンジできたのはよかったです、蒼一さんがリクエストしてくれてよかった」
心の底からそういうと、彼がこちらを見る。持っていたマグカップをテーブルに置くと、私が持っている紅茶もそっと取って置いた。不思議に思いながらそのままでいると、彼は無言でキスを落としてきた。
コーヒーの苦味。蒼一さんはコーヒーが好きなのでよく飲んでいる。私は飲めないはずのその苦手な味が、こういう時だけは愛しく感じる。なんて単純なんだろう。
未だドキドキしてしまうその行為に身を任せていると、離れた彼が両腕に私を抱きしめた。サラリと揺れる髪が頬を掠める。
熱い体温に包まれていると、蒼一さんが小声で呟く。
「あーあ」
「え?」
「また欲しくなってきた」
「あんなにケーキ食べたのにですか!?」
私が驚いて言うと、蒼一さんが体を離す。どこか楽しげに彼は言った。
「ケーキじゃなくて、こっちね」
そして、もう一度私に軽くキスをする。
私は瞬時に顔を熱くさせた。視線を逸らしてしどろもどろに言う。
「そ、それは……昨晩も召し上が、られたのでは……」
「ほんとだね。でもしょうがないよね」
けろりとして言う。その笑顔になんと答えていいかわからない私はただあたふたと慌てたが、蒼一さんが決定事項のように言った。
「今日は一日家でゆっくり、だもんね」
さっきまで子供っぽいと思っていたその表情がどこか変わったのを見逃さない。
悔しい、結局こういうところも残念ながら好きなのだ。
休みの日、冷蔵庫に眠るショートケーキ、飲み掛けのコーヒーと紅茶。
なんてことない光景が、私にとっては幸せそのもの。
<完>