片想い婚
「山下さんはどうだった?」

「あ、なんかあったらいつでも頼ってって、電話番号教えてもらいました」

「そうか、よかった。あの人は昔からうちに来てて、僕も散々お世話になってる家政婦さんだけど、気が良くていい人だからね」

「はい、わからないこととか山下さんに聞こうと思います」

「それがいいね」

 優しく笑ってくれる蒼一さんに笑い返す。彼はそのまま食事を続けた。みるみるおかずたちは減っていき、全てが彼の胃袋へと収まる。

 きんぴらごぼうが入っていた小皿も、綺麗になっていた。

 それをチラリと眺め、ほっと息をつく。

「ごちそうさまでした」

「あ! お皿は洗います、それくらいさせてください」

「ほんと? じゃあ甘えて、僕はお風呂に行ってこようかな」

 蒼一さんはそう言ってリビングから出て行った。残された食器たちを片付けながら、私は一人頬を緩めた。

 山下さんに教わりながら、私が唯一作った料理はきんぴらごぼうだった。

 ちょっと形とか歪だったけど、蒼一さんは完食してくれた。多分、美味しくできていたんだな。

 今まで知らなかった。大切な人に作った料理を完食されることが、こんなに嬉しいことだなんて。

 嬉しさに笑い、部屋の隅にしまっておいたノートを取り出す。今日教わったレシピがそこには書かれていた。

 少しずつ。少しずつでいいから頑張ろう。まだ私自身奥さんと呼ばれるにはあまりに不出来。これから頑張って立派な女性になろう。

 そしていつか、蒼一さんがお姉ちゃんを忘れてくれる日を待って。

 私はノートを仕舞い込むと、からになったお皿たちを洗うために腕まくりをした。

< 15 / 141 >

この作品をシェア

pagetop