片想い婚
咲良の想い
あまりに滑稽で恥ずかしくなった。
結婚したというのに一つ屋根の下にいながら手も出してもらえず、ついには寝室も別にされてしまった。私には触れないと言い切っていた蒼一さんだけど、いつかはちゃんと女性としてみてもらえるかもしれないって望みはかすかに持っていた。
それが、この有様だ。このままでいい、と勇気を出して言ってみたけれど、蒼一さんが離れたい、と望んだ。
恥ずかしくて死んでしまいたかった。
暗くなった部屋で静かに涙を流しながら、ふと考えた。もしかして蒼一さんは、いつかお姉ちゃんが帰ってきた時にやり直すつもりなのかな、と。だから私と夫婦関係を作らないというのもあるのかもしれない。
少しだけ掠れた声でそう聞いてみれば、イエスとは言われなかった。でもその代わり、『咲良ちゃんは好きな子とかいたんじゃないの』と尋ねられた。
その言葉はいとも簡単に私の心を砕いた。
そんなの、結婚相手に聞くことじゃない。私に好きな人がいると答えても、蒼一さんはきっとなんとも思わないんだ。きっとごめんね、と謝ってくれるだけ。
いないなんて嘘はつきたくなかった。私の子供の頃からの初恋を、なかったことになんてしたくない。
「好きな人は、います」
あなたです
口が裂けても言えない想いを押し殺した。案の定蒼一さんは私に謝ってくれた。その謝罪は悲しく、いっそ気持ちがなくても適当に抱いてもらえた方がずっと楽だと思った。
土曜日、私たちは街へ出かけた。
誘ってもらえた時は初めてのデートだと飛び上がって喜んだものの、家具屋にベッドを買いに行く用事だとわかった時はただ悲しくなった。
二人きりで出かけるなんて嬉しいことなのに、目的が夫婦別室のためのベッドなんて。
それでも、私が落ち込んでいることを悟られるわけにはいかないので、もう前向きに蒼一さんとの外出を楽しむことにした。嘆いていてもしょうがない、女として見られていないこの状況は変わらない。
朝早く起きて一番お気に入りのスカートを取り出し、あまり得意ではない化粧も頑張った。どこか子供っぽい自分なので、少しでもそれを隠したかった。お姉ちゃんはいつでも大人っぽくて綺麗な人だったなと思い出してしまう。
出かける時間に廊下へ出ると、私をみた蒼一さんは目を細めて『かわいいね』と褒めてくれた。嬉しさと恥ずかしさでうまく返事ができなかった。そういうことをストレートに言ってくれるのは罪な人だとも思う。
そう言う蒼一さんは、メイクなんて施していないのに私よりずっと綺麗な顔をしている。マスカラ不要の長い睫毛、ファンデーションいらずの白い肌。いつでも見惚れてしまうほど彼は素敵だ。
街中に出てその魅力を思い知らされる。蒼一さんと並んで歩いていると、女性からの視線が痛かった。いつもこんなに人から注目されているなんて落ち着かなそうだな、なんて。そして隣にいる私の場違い感がすごいったらない。
「ここだね、映画館。行こうか」