片想い婚
映画を観終わった後、予約しているランチのお店まで歩いて移動していた。
人混みの中話ながら並んで歩くのは新鮮で素直に楽しい。緩む頬で先ほどみた映画の話をしていた。
「犯人私全然わかりませんでした……! あの眼鏡の人かなって思ってたんですけど」
「ああ、僕もそう思ってた! 完全に騙されたよね」
「絶対間違いないぞって思ってたのに。よくできてますね、面白かった」
「最後は切なかったね、ほんと面白かった」
「ちょっと泣いちゃいました……!」
弾む会話に口数も増えていた。蒼一さんも笑いながら隣で話を聞いてくれている。ずっと憧れていた彼とのデートは、予想以上に心が躍ってしまう。
ベッドを買いに行くという目的であっても、私は今日のことをずっと忘れないだろうなと思った。
ふと周りを見渡すと、多くのカップルが楽しそうに街を歩いている。幸せそうな男女を見ながら、私たちも少しはカップルらしく見えてるだろうか、なんておこがましくも思い微笑む。
けれどすぐに、手を繋いだり腕を組んでる様子を見て苦笑した。微妙な距離感がある私たちは、やっぱりあんな風にはいられないよね。蒼一さんと手を繋ぐなんて、一生ないのかも。
「あ、咲良ちゃん、お店はこっちに曲が」
「咲良?」
蒼一さんが指をさした瞬間、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。二人で振り返ると、そこに立っていたのはがっしりした体つきの男の子だった。
「あれ、蓮也! よく会うね?」
蓮也だった。ついこの前も偶然会ったばかりだというのに、まさかこんな街中でも会うなんて。彼は一人ポケットに手を入れたまま立ち尽くしていた。私と蒼一さんを交互に見ている。特に蒼一さんには、やや驚きの表情を見せていた。
蒼一さんが小さな声で囁いた。
「友達?」
「あ、そうなんです」
私は慌てて紹介せねば、と思い立ち蒼一さんに笑いかけた。
「幼馴染みたいな感じなんです、中学高校大学とずっと一緒で。北野蓮也くんです」
私がいうと、蓮也は無言で少しだけ頭を下げた。さて次に蒼一さんを、と思ったところで、言葉に詰まってしまった。
私の夫の、なんて言ってもいいんだろうか。戸籍上はそうだけど、何だかひどく違和感を覚えてしまう。
「えーと……天海蒼一さん、です、蓮也も知ってると思うけど……」
やや言葉を濁らせた時、察したのか蓮也が声をだした。どこか冷たいように感じる低い声で、普段の彼とはまるで違う印象だった。
「咲良の結婚相手ですか」
そんな蓮也の態度にも、蒼一さんは柔らかく笑って答えた。
「はい、そうです」
「……そっすか。何歳なんすか」
「二十九ですね」
「ふうん。七歳上か、咲良の姉ちゃんならちょうどいい年だったんでしょうね」
「……知っているんだね、結婚の経緯」
「知ってますよ、咲良の姉ちゃんが当日いなくなって身代わりになったこと。それでも結婚するんだからすごいっすね」
流石に気づく。蓮也は敵意剥き出した。彼は私の結婚にかなり反感を持っていたから、蒼一さんにも冷たく当たってるんだろう。私は慌てて蓮也の腕を掴み、一度二人で蒼一さんに背を向けた。小声で訴える。