片想い婚
「私が……蒼一さんと結婚します」
気がつけば自分の喉から漏れていた言葉に、自分で驚いた。
周りの視線が私に集まる。そこには、茶色の瞳を持った蒼一さんのものもあった。私はつい俯く。
「いや、あの……蒼一さんが、よければ、ですけど……」
今更おこがましいと感じ小声で言った。太陽のような姉と比べ、私なんて妹としか思われていないはずなのに、蒼一さんが許可するのだろうか。
長い沈黙が流れた後、お父さんがいう。
「そ、そうだ……キャンセルしてお客様を帰すよりマシだ、会場の名前を急いで変更させて……!」
「待ってください、咲良はまだ二十二で、大学卒業したばかりですよ!」
「でも成人している、両家を結ばせれば結婚なんて誰でもいいんだ。咲良でも、綾乃でも!」
「あなた、そんな言い方……」
「咲良、いいのか? 蒼一くんは?」
額に汗を浮かべたお父さんの気迫に押されながら、私はなんとか頷いた。恐る恐る蒼一さんを見る。彼は苦しそうな表情をしながらも、頷いた。
「咲良ちゃんがいいならば……」
お互いの家のことを考えれば、蒼一さんだってそう言うしかない。
その言葉に、場は慌ただしく一気に動き出した。私はスタッフや母に連れられ化粧だの髪のセットなどを行った。幸い姉とは体型が似ていたので、衣装はピッタリ着ることができた。母は私の準備を手伝いながら、何度も何度も私に謝った。
会場にある姉の名前は式場のスタッフが急いで変更し、その様子に気づいた来賓者は訝しげに思う者もいたようだった。招待状はすでに姉の名前で発送されていたので、突然私の名前に変わったことに気がつかないわけがない。
数多くのスタッフに囲まれ、私も最短で支度を仕上げる。その日姉が着るはずだったドレスに腕を通し、髪を結った自分を鏡で見れば、どこか違和感を感じた。どちらかといえば童顔な私に、姉が選んだドレスは合わない気がしたのだ。
気がつけば、背後に蒼一さんが立っていた。びくりと反応し振り返る。
「あ、の、蒼一さん……私……」
「本当にいいの、咲良ちゃんの気持ちは」
「は、はい」
だって、私の初恋の人はあなたなんです、ずっと好きだったんです。
……そんなことをこの場で言えるはずもなく、私はただ必死に頷いた。蒼一さんが無言で手を差し出してくれる。
大きく綺麗な肌をした手のひらに、そっと自分の手を乗せた。
どこかひんやりした手のひらに、私の指先が包まれる。
「無理、しないで」
「は、はい」
「行けますか」
「は、はい!」
その手を握っただけで、私は幸福感に満たされた。ずっと見つめ続けていた人が、私の隣にいてくれている。絶対に叶わない夢だったはずなのに、今現実に起こっている。
姉と結婚するはずだった婚約者はその日、
私の夫となった。