片想い婚
「ええ先ほどご本人から伺いました。奥様だったなんて。私てっきり天海さんのファンの方とかが押しかけたのかと思ってしまいましたよ」
笑いながらサラリと言われた言葉に、うっと言葉が詰まった。それってつまり、『まさか奥様とは思いませんでした』ってことだよね。
慌てて家から出てきたとはいえ、もっと身だしなみを気をつけるべきだったと反省する。大人っぽい格好すればよかった、顔に似合わないと思うけど……。
「奥様ということは、今度のパーティーもいらっしゃるんですか?」
にこやかにそう聞いてきた新田さんに、隣の蒼一さんの視線が少し泳いだのに気がついた。私はすかさず聞き返す。
「パーティー、って?」
「あれ? ご存知ないんですか。今度開かれる創立記念パーティー。社長の奥様も同席されますし、後継である天海さんの奥様も当然いらっしゃるのかと」
私は蒼一さんの顔を見上げた。彼は困ったように眉間に皺を寄せている。今さっき妻と紹介されて喜んだ心は一気に落ちていった。
……知らない。聞いてなかった、そんな話。
つまり蒼一さんのお父様お母様も参加するパーティー。普通に考えて、蒼一さんの妻である私もいくのは当然のものだと言える。この会社の創立記念なら、取引先なども招いて接待するのでは。
でも、知らない。聞かされてもいなかった。
目の前が真っ暗になる。どうして蒼一さんは言ってくれなかったんだろう、私みたいな子供じゃいろんな人に妻だと紹介するのははずかしかったんだろうか。
それとも、やっぱり本当はお姉ちゃんを連れて行きたかったから、私を連れて行く気になんてなれないんだろうか……。
「いや、その話はこれからするつもりだったから」
頭をかきながら蒼一さんが言う。新田さんは目を丸くして言った。
「これから、って。もう、パーティーはすぐですよ。女は色々準備があるんですから、天海さん早く言っておかないと」
「ああ……うん、それはそうだね」
「私もその日参加させていただく予定です。奥様、またお会いできるのを楽しみにしていますね。おしゃれして来てくださいね。天海さんの奥様の披露会にもなりますから」
にっこりと笑っていう新田さんに、かろうじて引き攣った笑いだけなんとか返す。彼女は余裕の笑顔を見せると、その場から颯爽と立ち去っていった。
見抜かれている気がした。私たちが本当の夫婦となりきれていないことを。形だけの結婚で、本当は心も身体も繋がれていないことを。彼女はきっとどことなく気づいている……そんな気がした。
そしてそれと同時に、私がどれほど蒼一さんの妻として相応しくないのかも気付かされた気がする。私が名前を名乗った後のあの反応。まさか、こんな子が? って、顔に書いてあったもんな。
「……ごめんね」
新田さんを二人で見送った後、隣の蒼一さんが呟いた。その謝罪が辛かった。
「家に帰ったらちゃんと説明するから」
彼は私の目をしっかり見てそう言ってくれた。私はただ黙って頷き、逃げるようにその場から帰宅した。
笑いながらサラリと言われた言葉に、うっと言葉が詰まった。それってつまり、『まさか奥様とは思いませんでした』ってことだよね。
慌てて家から出てきたとはいえ、もっと身だしなみを気をつけるべきだったと反省する。大人っぽい格好すればよかった、顔に似合わないと思うけど……。
「奥様ということは、今度のパーティーもいらっしゃるんですか?」
にこやかにそう聞いてきた新田さんに、隣の蒼一さんの視線が少し泳いだのに気がついた。私はすかさず聞き返す。
「パーティー、って?」
「あれ? ご存知ないんですか。今度開かれる創立記念パーティー。社長の奥様も同席されますし、後継である天海さんの奥様も当然いらっしゃるのかと」
私は蒼一さんの顔を見上げた。彼は困ったように眉間に皺を寄せている。今さっき妻と紹介されて喜んだ心は一気に落ちていった。
……知らない。聞いてなかった、そんな話。
つまり蒼一さんのお父様お母様も参加するパーティー。普通に考えて、蒼一さんの妻である私もいくのは当然のものだと言える。この会社の創立記念なら、取引先なども招いて接待するのでは。
でも、知らない。聞かされてもいなかった。
目の前が真っ暗になる。どうして蒼一さんは言ってくれなかったんだろう、私みたいな子供じゃいろんな人に妻だと紹介するのははずかしかったんだろうか。
それとも、やっぱり本当はお姉ちゃんを連れて行きたかったから、私を連れて行く気になんてなれないんだろうか……。
「いや、その話はこれからするつもりだったから」
頭をかきながら蒼一さんが言う。新田さんは目を丸くして言った。
「これから、って。もう、パーティーはすぐですよ。女は色々準備があるんですから、天海さん早く言っておかないと」
「ああ……うん、それはそうだね」
「私もその日参加させていただく予定です。奥様、またお会いできるのを楽しみにしていますね。おしゃれして来てくださいね。天海さんの奥様の披露会にもなりますから」
にっこりと笑っていう新田さんに、かろうじて引き攣った笑いだけなんとか返す。彼女は余裕の笑顔を見せると、その場から颯爽と立ち去っていった。
見抜かれている気がした。私たちが本当の夫婦となりきれていないことを。形だけの結婚で、本当は心も身体も繋がれていないことを。彼女はきっとどことなく気づいている……そんな気がした。
そしてそれと同時に、私がどれほど蒼一さんの妻として相応しくないのかも気付かされた気がする。私が名前を名乗った後のあの反応。まさか、こんな子が? って、顔に書いてあったもんな。
「……ごめんね」
新田さんを二人で見送った後、隣の蒼一さんが呟いた。その謝罪が辛かった。
「家に帰ったらちゃんと説明するから」
彼は私の目をしっかり見てそう言ってくれた。私はただ黙って頷き、逃げるようにその場から帰宅した。